風の吹く星
髙橋 あい
あんなに暑く自己主張していた夏も、9月頭に台風が吹くとスーッと退き、気が付くと風が金木犀の香りを運んでいました。
個人的なことですが、この数年間に大切な人の死に向き合った私は、要介護の方との向き合い方を改めて学びたいと、7月末から介護についての勉強に通っています。社会保障制度、身体と心の働き、現代起こりうる病気など今まで名前しか知らなかった、名前すら知らなかったその実を知り、また、車椅子や介護用ベッドの使用方法、排泄、清潔、食事などの介護方法を学んでいます。予想以上に精神的にも肉体的にも身に堪える講義と実習が重なり、第十七号は約1ヶ月遅れての発行となってしまいました。
どんなに平気な振りを装っても、やはり私には大事な人の死はいつまでも心に残り、共に生きていくもののようです。精一杯深い付き合いをしてきたから、「生きている間にもっと会っておけばよかった、こうしてあげてればよかった」という後悔のような感情はこれっぽっちもないけれど、ぽっかり空いた穴はいくら時間が経っても埋まりません。はやく私もあっちに行ってお酒を一緒に飲みたいな、とか、積もる話をしたいな、とか、一緒に散歩をしたいな、とか、そんなことを思い続けてしまいます。
半麻痺の設定で行う車椅子の実習をしていると、去年の7月22日に亡くなった大重監督になりきっている自分がいました。監督の目線を追い、監督が身体をどうして欲しいと言っていたかなどを思い出しながら、なりきっているのです。
その大重監督の一回忌のイベントが、沖縄県那覇・玉城・久高にて、沖縄映像文化研究所主催で行われました。
鎌田東二先生と須藤義人さん、比嘉真人さんをはじめ、大重監督と関わりのあった人から、生前の監督を知らなかったけれど「久高オデッセイ」を見た人、見たかった人など多くの人が沖縄県内外から集まり、映画を見て語り歌い踊った三泊四日でした。
参加者全員が思い出話を語る中、最後の助監督・比嘉真人さんが大重監督が語っていたことの思い出を一つ話してくれました。
「
風のことから老子を思い出した時、私はふと、「風」という字を漢和辞典で引いてみました。「風」の字の「几」の部分は、もと、「帆」という字と同じ意味を表す。その「几」の部分は、もと、「帆」という字と同じ意味を表す。その「几」のなかに「虫」という字をおいて「風」とした。「虫」は古代の篆書では、「竜」の意味だそうです。舟の帆をふくらませる虫(竜)の力を「風」の字で表したわけです。目に見えない力を竜と考え、その竜をはらんで動く帆から「風」という字を作った……。
(略)
人間の眼に映じるのは必ず何かが動かされている時であり、動かすものは眼に見えない。それが風なのです。風を知るとは、動きを感じることです。それが古代人にとっても、現代の私たちにとっても、見えないものの動きを知る最も良い道なのです。
「老子と生きる谷の暮らし」加島祥造
大重監督が海の風を感じていたように、加島さんは山から谷に、川の上流から下流に吹く風をとても感じていた人でした。そして地球のゆりかごに、タオの懐に、揺れ、抱かれて逝ったのだろう。「人の死」も自然の摂理の中にあり、「人の死」を受け入れるのに必要な時間もまた、生きるためには必要なのだろうと思い、今を過ごしています。
山は静かにして生を養い、水は動いて情を癒す
芭蕉「洒落堂記」
自然が私たちの生を養ってくれている力は大きい。出会った人、別れた人、全てとの付き合いは、自然と向き合う中で永遠と続く。
大重祭りは来年度以降も続く予定です。語り継ぐこと、それは私が監督と知り合った中で唯一続けていけること。全ての出会いに感謝しています。
10月29日、上智大学にて五木寛之の特別講座を予定されています。タイトルは「悲の力ー乱世を生きぬくために」。「悲」は生きる上で切り離すことが出来ません。どう向き合い共生していくか、今、多くの人に響く講座になると思います。是非、ご予約の上お出掛け下さい。
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乱世を生き抜くために必要な力と知恵について、作家の五木寛之さんに伺います。鼎談では、宗教学者の島薗進さんと鎌田東二さんが、それぞれの視点から五木さんに問いかけます。
お申込は、FAX、電子メール、往復はがきで受付ております。末尾を確認の上、お申し込み下さい。
日時:2016年10月29日(土)15時~18時(開場14時)
会場:上智大学10号館講堂
共催:上智大学グリーフケア研究所・NPO法人東京自由大学
法螺貝奉奏
第一部 特別講演
五木寛之「『悲』の力~乱世を生きぬくために」
休憩 (15分)
第二部 鼎談 横笛・石笛奉奏
鼎談「乱世を生きぬく力と知恵」
五木寛之 島薗進 鎌田東二
高橋 あい/たかはし あい
写真家。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京芸術大学修士課程修了。ポーラ美術振興財団の助成を受け、2012年9月から1年間、アメリカ合衆国・インディアナ大学にて写真作品制作と研究を行い、2013年10月に帰国。現在は飛騨古川を拠点としている。東京自由大学では、主に 「大重潤一郎監督連続上映会」の企画を行ってきた。また、このウェブマガジンの発案者である。ホームページ