太古から今、そして未来へ
高橋あい
私は13年前に、映画「光りの島」に恋をした。正確には、「私が」ではなく、「私の魂が」だ。何度見ても、気持ちよく眠った。大重監督に「すみません、大好きな映画なんですけれど、いつも寝てしまうのです」と言うと、寝れるというのが最高の褒め言葉なのだと大きな身体で笑ってくれた。気の通った御嶽の中で眠っているような感覚だった。
2015年7月22日15時50分、享年69歳、今生での別れとなった。大重監督は、あと300年生き、撮り続けたい世界があった。けれど、とりあえず今生においては、「久高オデッセイ[第三部 風章]」が遺作となった。
2013年、撮影が始まった私と大重監督は、第三部を「光りの島」に還る映画にしたいと話していた。そして、その通りの映画になった。
海の青
この島の自然に始まりも終わりもない。くりかえしがあるだけじゃないか。
地球は生命のゆりかごであるという。しかしそれは生み出すだけではない。死をもひきとっている。そして眼には見えない。耳には聞こえないちがう次元へ導き、計り知れないいのちを生かしている。生も死も全てを包み込んで大きなうねりをくりかえしている。
夕の木
その営みを、我々、人間は記憶できないまま、見失ってしまったのではないか。もしかすると泰然と生きる他の生きもの達はそのことを知っているのではないか。
唄う石
ああー。全てが生きている。祖先や様々な霊たちが石の像(かたち)を借りて唄っている。
日の出
母さん、そうじゃなかったでしょう。
「死んだらなんにもならん。」なんて。死んでも生きているでしょう。生きる姿は変わってしまってけれど。しかし、母さんがどうしているか分かって良かった。
母さんよかったね。
「光りの島」ナレーションより一部
大重監督は、「光りの島」の舞台である新城島のかつての姿を、久高島に見ていたのかもしれない。人工的なものが極めて少なく、人が自然の中で生きている姿。光を見、風を感じ、自然そのものに祈る姿。自然も人も命が行き来する風土。
大重監督は、日本各地の、古来の自然が残っている場所場所を歩き、撮影しながら自らの魂が帰する場所を見つめていた。そうして最後に、流れ着くようにして久高島へ辿り着いた。
全てのものは往き、全てのものは再び帰り来たる。
存在の車輪は永劫に回帰する。
全てのものは死し、全てのものは再び花開く。
存在の歳は永劫にはせ過ぎる。
ニーチェ「永劫回帰」より
大重監督は、人生の中を急がず、自然の時間により添った作品を残してくれました。それは「今」を切り取ったものではなく、「太古から今、そして未来へ」という時間軸を教えてくれます。
東京自由大学では、8月29日に「大重潤一郎監督を偲ぶ会」を予定しております。詳細は後日、東京自由大学HPにてお報せ致しますが、会場の関係もありますので、ご参加される方は事前にご一報をお願いしたく存じ上げます。
10月までに行われる「久高オデッセイ[第三部 風章]」上映会のお報せです。
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日時:8月27日18:30〜
会場:恵文社一乗寺店
ゲスト:鎌田東二
料金:一般2,000円、学生1,500円
詳細ホームページはこちらから▷▷▷
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日時:9月5日16:00
会場:アップリンク渋谷
ゲスト:SUGEE
料金:2,000円
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日時:10月3日14:00〜
会場:上智大学10号館講堂
「久高オデッセイ[第三部 風章]」+シンポジウム
シンポジウム:高木慶子(上智大学グリーフケア研究所特任所長)
島薗進(上智大学グリーフケア研究所所長)
鎌田東二(京都大学こころのみらい研究所センター教授)
料金:一般1,500円、学生1,000円
主催:上智大学グリーフケア研究所 03-3238-3776
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その他、10月17日神戸、10月18日松本にて予定しております。詳細は久高オデッセイ公式HPに掲載していきますので、そちらをご覧くださいませ。
http://www.kudakaodyssey.com/
大重監督、および「久高オデッセイ」に生前関わりのあった方々へ、故人に代わりまして、スタッフ一同心より感謝申し上げます。今後とも大重潤一郎映画をどうぞ宜しくお願い致します。
合掌