― I Love Lucy ―
桑原 真知子
根っ子だけ残ってた銀杏から枝が伸びて、葉がつきました。中国大陸原産の銀杏は生命力が強くて、地球上で最も古い樹木の一つだと樹木医の方にお聞きしました。黄金色の葉が舞う街路樹には、毎年心がときめきます。
今年の夏の広島は被爆70周年を迎え、いつにも増して街中が沸騰していました。原爆をテーマにした作品があふれ、パフォーマンスがあふれ、取材の人があふれかえってました。それは被爆の実相に触れ、平和について考える行動でした。
生命の辺境の地を歩き続けて来た被爆した人たち。広島の人たちの8月6日は、焼きついた影を掘り起こす、深い嘆きと静かな祈りの一日。魂を迎え、元安川へと送る一日でした。
人間は秋に生まれた
十月の風景の中にいれば
僕にはそれがわかる
低い空の燃え出しそうなあの月と
黒い林に吸い込まれて行く
あの虫達の声にさそわれて
人間はたったひとりで生まれて来たんだ
広い草原に足をふんばって
立ちあがってみたとき
人間は自分というものが
好きでたまらなくなってしまったんだ
自分の影が自分の立っているこの草原に
はてしなく広がっていたから
だから人間はみんな秋が好きなんだ
人は自分の影を愛するのでしょうか。
この詩は、随分昔に母が読んでた婦人公論に載ってたのを書き写してました。名前もなく、自殺した中学生が書いたものと紹介されてました。
鮮やかな孤独感。400万年前にエチオピアの台地に足跡を残した、全類人猿の母ルーシーを思い起こさせる風景。直線で届く純粋な言葉が、私の心に宿りました。
木は歩けないけれど、沢山の透明な言霊を宿す木から生まれ落ちた言葉は風に乗り、もう一人の誰かに想いを届けようと旅をする。風に揺れる木の下に立つと、そんなことを夢想します。
桑原 真知子/くわはら まちこ
広島県生、空見人。多摩美術大学絵画科油画課卒業。広島大学文学部考古学科研究生修了。草戸千軒町遺跡にて、遺物の漆椀の図柄の模写や土器の復元を行う。シナジェティクス研究所にてCG担当とモジュール作成などを経て、現在は魂を宙に通わせながら作家活動を行っている。