流れに流されて見える風景 vol4
高嶋 敏展
ドキュメンタリー映画の巨匠、姫田忠義氏の幻の著書「ほんとうの自分を求めて」を復刻するプロジェクト。姫田忠義さんの事務所の押しかけ女房の今井千洋、出雲在住で独立独歩のデザイナー石川陽春、僕という不思議なトリオの挑戦は続く。
復刻までの波瀾万丈、抱腹絶倒、奇々怪々、支離滅裂なる日々を書き留める。
復刻された「ほんとうの自分を求めて」には二人のアーティストが参加をしてくれている。
一人は繁村周さん
東京芸大で日本画を学んでから、絵画などの修復を生業としながら作品制作を続けている。
もう一人は海津研さん
海津さんはやはり東京芸大でデザインを学んだ後、アニメーションなどで活躍するアーティスト。「たけしの誰でもピカソ・アートバトル」のグランドチャンピオンとして記憶する人も多いかな。
二人のアーティストを1冊の本で使うことはまずない。
単純に予算が2倍かかるし、調整はより複雑になる。
あえて二人にお願いしたのには理由がある。
「ほんとうの自分を求めて」の元々の挿絵は勝又進さんというガロ系の漫画家が書いてくれている。姫田さんから「水木しげるさんにお願いしたかったが多忙だったので同じガロ系の勝又さんになった」と聞いていた。
じつは勝又さんの代表作「赤い雪」など個人的には大好きな作品で思い入れもあったのだが、問題は勝又さんが2007年に亡くなられていたので復刻にあたり原画の有無や権利関係でひと苦労が予想された。
そんな頃に繁村さんが登場した。
なんと「ほんとうの自分を求めて」を読んでいても立ってもいられずに、静岡から東京の姫田さんを訪ねてきたのだそうだ。
東京の今井千洋が彼の情熱にやられてしまって、ぜひ挿絵を繁村さんにお願いしたいと言い出した。
特にあてがあるわけではないし、渡りに船なのでこの件は今井千洋に任す事にした。
しかし、これが後々に影響を及ぼすことになる。
会った事のない人と人を間に挟んでのやり取りは行き違いがよくおこる。
出雲で考えたデザインのイメージを今井千洋に伝えて、今井千洋から繁村さんに伝えて描いてもらうと絵がどうも要求とズレていた。
こちらとしてはどんな人かわからぬし、遠慮もあって困ってしまった。
僕は繁村さんと会うのは数年後になるのだが、直接会って繁村さんの情熱のほどを知っていれば、「ほんとうの自分を求めて」はまた違った本になっただろう。
なんだかんだで一度、繁村さんの挿絵は頓挫する。
頓挫したのちに海津さんが別の所から現れた。
海津さんは繁村さんの大学の先輩で、僕とは全く違う所で面識があった。ちなみに姫田さんの所に海津さんを連れて行ったのは繁村さんだそうだ。
この頃、初めて繁村さんと僕は直接やり取りをした。
挿絵を描いてみたいという二人のアーティストを前にかなり悩んだ。
デザイナーの石川陽春は二種類の絵柄を使う事で本の統一感が損なわれるのではないかと心配していたし。
ただ気持ちが同じ方向を向いている時はそんなに着地点は大はずれしないものだ。
気持ちや情熱で関わってきた人間を姫田さんはどちらか片方を選んだりするだろうかとも考えた。
ここまで流れに流されて進んでいるんだから、いっそ海まで流されてやれ。
冷静に考えれば最も選ばない道を選択する結果になった。
二人にはあまり細かい注文をしなかった。
本から感じた事を描いてくれたらそれでよい
本からイメージを拾い上げる海津さん、具体的なイメージを絵にすくい上げる繁村さん。
二人から絵が届くのが非常に楽しみだったのをよく覚えている。
出来上がった本はまことに美しい仕上がりとなった。
ぬくもりのある優しい仕事。
尊敬と敬愛のある仕事。
情熱と使命を宿した仕事。
お金を稼ぐだけが仕事ではない。
優れた仕事は人を感動させると二人の仕事から改めて知った。
9月のはじめに繁村周さんと海津研さんが参加する展覧会が銀座煉瓦画廊で行なわれた。仕掛人はこれまた、クリエ・ブックス編集室の中心メンバーの一人の谷崎信治さんだった。
「月夜の賢治 宮沢賢治の、月と陰暦を巡る展覧会」
2014.9.1 Mon - 2014.9.7Sun
Open - Close
11:00 - 19:00 ( 最終日17:00迄 )
銀座煉瓦画廊
http://ginzarengagarou.com/exhibition/2014/tsukiyonokenji.php
高嶋 敏展/たかしま としのぶ
写真家、アートプランナー。1972年出雲市生まれ。1996年大阪芸術大学芸術計画学科卒業。
大 学在学中に阪神淡路大震災が発生。芦屋市ボランティア委員会に所属(写真記録部長)被災地の記録作業や被災者自身が撮影記録を行うプロジェクトを 企画。1995年~「被災者が観た阪神淡路大震災写真展」(全国30か所巡回)、芦屋市立美術博物館ほか主催の「震災から10年」、横浜トリエンナーレ 2005(参加)、2010年「阪神淡路大震災15周年特別企画展」、2012年「阪神大震災回顧展」など多くのプロジェクトに発展する。