この一瞬一瞬
郷右近富貴子
ある日の昼下がり、常連のお客さんとの話で、
「100年前の阿寒湖へ行ってみたいね!」
「20年前は何をしていた?10年前は?…」
「じゃあ、20年後…100年後は、どうなっているんだろうね…」
という話になった。
そんな話の後、ふと気が付くと、たった10年でもいろんな事が変わっていた。
未来を想像する時に、今から5年10年15年…
子供達の成長とともに、この阿寒湖は北海道…日本…世界は…と、
未知の時間に不安と期待でいっぱいになるけれど、
過去に遡ると、なんと様々に変化していることか…
そして、人の一生の儚さ。
阿寒のこのコタンでも、この十年間で多くの大切な大先輩たちが
天へと召されていった。
鹿の毛皮や熊の毛皮を着て、コタンのてっぺんで尺八を吹いていたエカシも、
子供の頃に、厳しく踊りを教えてくれ、お店の前を通るときには
冗談一言飛ばして、笑っていたおばさんも、古式舞踊を踊りに行くと、
来たのかい?と言ってくれて、「あちゃかちゃか~、いやぁおっかいしねえ」と言って、
お茶目に驚きながら、ウポポの唄い手として、素晴らしい歌を歌い続けていたフチも…
一瞬にして、全てが思い出になってしまう。
そしてまた時は刻み続け、日々移り変わっていく。
留まってはいられない、時は流れていくのだから、振り返ってばかりもいられない。
でもふと、天へ召された先輩たちが残していったものは何だろう…
伝えたかったことがあるとするならば、それは何だろう…
きっとその事の中に、旅立った方達が生き続けて居るのではないかな…と。
この先10年。
想像するだけでも、沢山のことが変わってゆくのが目に見えるよう…
今この一瞬一瞬が、
本当に愛おしく、かけがえのない日々であることを、
もっと感じて、大切に生きていかなくっちゃ!
と思った、秋の夕暮れでした。
郷右近 富貴子/ごううこん ふきこ
幼少よりアイヌ舞踊などを習いつつ阿寒湖アイヌコタンで育つ。3児の母。アイヌ料理屋ポロンノを家族で経営しつつ、阿寒観光汽船「アイヌ文化ギャラリー船」にて、アイヌ語り部として、ムックリやトンコリなどを演奏し、アイヌ文化を紹介している。姉・床絵美と’Kapiw&Apappo’というユニットで音楽活動を行っている。民芸喫茶ポロンノホームページ