first star

桑原 真知子

 

 

 

環八沿いにあった学校の菩提樹の下で、みのるさんと出遇いました。

芝生に覆われた菩提樹がある一角は、構内で自分が一番落ち着ける場所。いつもそこに座って、一人でお弁当を食べてました。樹の温もりに体をあずけて、空を眺めるのがお気に入りでした。

汚れたジーンズとゴム草履が圧倒的に多い校内で、長い髪を引きつめて頭の高い位置にお団子を作り、ワンピースを着て登校する彼女は英文科の雰囲気で、美大の中では特異な存在に見えました。

ある日、『隣に座っていい?』と声を掛けられて『どうぞ』と言うと、『貴女はいつもこの樹の下にいるけど、どうして?』『ここに座って空を見てると、自分を見守って下さっている、神様の大きな目を感じるの』と答えました。

『私もよ』と言うみのるさんの言葉に共鳴し合い、友だち関係が始まりました。

後日、ワンピース姿は、英語教師のアルバイトを済ませてから、学校に来てるからと分かりました。魂の深度を感じる彼女からは、多くのことを学びました。

 

二人で[われらコンペイ党員]と名付けたお話は、金平糖を人間関係に例えると、金平糖のトゲトゲは人の個性かも知れない。もしも良い人間関係が作れなければ、トゲトゲが削られてしまって、中の小さな球しか残らない。もしも良い人間関係が作れたならば、トゲトゲの溝を埋めることができて、外側の大きな球を作ることが出来る、というものでした。

短い一緒の時を過ごし、彼女の存在は、揺るぎなく北を指し示す、北極星のようでした。

 

 

 

みのるさんがスペインに行くまで美術を教えてた、中学校での最後の授業は、素敵でした。

『みんなにとっての、神様の絵を描いて下さい』という課題を出したそうです。

全員の子どもたちの絵を黒板に貼り出すと、真っ黒に塗った人、白紙の人、マジンガーZを描いた人、キリストを描いた人と、てんでバラバラでした。

『みんなは、どれが神様だと思う?』子ども達のザワメキと『わかんねぇよ』という声。

『先生は、この絵のどれもが神様だと思う。もしも見ようとすれば、一枚の紙の中にも、一本の鉛筆の中にも、神様はいます。貴方たちの心の中に、いつも神様はいます』という言葉で、授業を締め括ったそうです。

 

ビッグバン以降に最初に生まれた‘first star’の色は、青色だったそうです。矢車草の青色なのか、露草の青色なのか、この最後の授業のエピソードは、私の中で、美しく輝く青い星として咲いています。

 


 

 

桑原 真知子/くわはら まちこ

広島県生、空見人。多摩美術大学絵画科油画課卒業。広島大学文学部考古学科研究生修了。草戸千軒町遺跡にて、遺物の漆椀の図柄の模写や土器の復元を行う。シナジェティクス研究所にてCG担当とモジュール作成などを経て、現在は魂を宙に通わせながら作家活動を行っている。