モンゴルの物語―ゾロムとゾオザ―
アルタン ジョラー
昔々、野ねずみのゾロムとゾオザが義兄弟の契りをむすびましたが、ゾロムは死に、ゾオザは部屋の隅で悲しく泣いていました。
そのとき、一羽のカササギがやってきてたずねました。
「ゾオザよ、ゾオザ。あなたはどうして泣いているのですか?」
ゾオザは答えました。
「ゾロムとゾオザが義兄弟の契りをむすびましたが、ゾロムは死に、ゾオザは部屋の隅で悲しく泣いていました」
それを聞いて、カササギは言いました。
「ならば、このカササギは鬚を抜いてあげましょう」
そう言うと、鬚を抜きました。
そのカササギが飛んでいって一本の神木の上で休んでいたところ、神木がたずねました。
「カササギよ、カササギ。あなたはどうして鬚を捨ててしまったのですか?」
カササギは答えました。
「ゾロムとゾオザが義兄弟の契りをむすびましたが、ゾロムは死に、ゾオザは部屋の隅で悲しく泣いていました。それを見たこのカササギは鬚を抜いてあげました」
それを聞いて、神木は言いました。
「ならば、この神木は葉っぱを落としてあげましょう」
そう言うと、葉っぱを落としました。
その神木のところに一匹の鹿がやってきてたずねました。
「神木よ、神木。あなたはどうして葉っぱを落としてしまったのですか?」
神木は答えました。
「ゾロムとゾオザが義兄弟の契りをむすびましたが、ゾロムは死に、オザは部屋の隅で悲しく泣いていました。それを見たカササギは鬚を抜いあげました。それを見たこの神木は葉っぱを落としてあげました」
それを聞いて、鹿は言いました。
「ならば、この鹿は角を取ってあげましょう」
そう言うと、角を取りました。
その鹿が歩いていたところ、ひとりの女中に会いました。女中はたずねました。
「鹿よ、鹿。あなたはどうして角を取ってしまったのですか?」
鹿は答えました。
「ゾロムとゾオザが義兄弟の契りをむすびましたが、ゾロムは死に、ゾオザは部屋の隅で悲しく泣いていました。それを見たカササギは鬚を抜いてあげました。それを見た神木は葉っぱを落としてあげました。それを見この鹿は角を取ってあげました」
それを聞いて、女中は言いました。
「ならば、この女中は水筒を捨ててあげましょう」
そう言うと、水筒を捨てました、とさ。
アルタン・ジョラー
モンゴル高原・ホルチン地方出身。東京自由大学主催ゼミ「モンゴル文化とシャーマニズム」担当講師、東京自由大学運営委員。内モンゴル師範大学院モンゴル哲学思想史講座修士課程修了。千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程単位取得満期退学。京都大学こころの未来研究センター・ワザ学共同研究員。シャーマニズムを中心とした心身変容技法の調査研究。