コズミック・ダンス
桑原 真知子
陽当たりのよい一日。空がゆっくりと歩いています。朝起きて、過ぎて行く雲に挨拶するのが日課になりました。
三才の頃の記憶です。庭で土をこねて一人で遊んでいると、頭の上に誰かの視線を感じました。誰かが私の姿を見ているのを感じて立ち上がって空を見上げると、雲一つなくぽかーんと晴れ渡たり青く澄みきった秋の空。神様の大きな目が見つめていました。空と大地と私、カラリと晴れた乾いた孤独を感じました。
「水の瞳」
私は死海の辺りに腰を下ろし
白く発光する塩の結晶を見つめている
空はツンツンと立ち並ぶ
空気の柱の上に薄いベールのようにかかり
大気のあまりの優しさに
とろりとまどろみかけている
遠く はるか カンブリア期の遠くから
空の視線を水の瞳が見つめかえす
「風の耳」Ⅰ
四角いの部屋の外側で音は風と共にいる
爪先立した旋律は長い足を垂直にのばし
収縮する壁の細胞膜の内側をすりぬけて
突きだし合ったりせめぎ合ったり
対面の壁にまで足を伸ばそうとする
Dos li`neas rectas se cruzan en un punto.
(2本の直線は1点で交わる)
そんな対角線の中心で音の果実は生きている
「風の耳」Ⅱ
ウサギの耳が青くなった
花の音 宙の耳 過ぎ行くもの 宇宙のゆらぎ
薄い雲が矢がすりのように流れていく
花の音と共鳴し合って風の音は生まれ
星の音と共鳴し合って人の音は生まれた “ cosmic dance”
トントン トントン
ゴーゴーゴーゴー
カタクキン カタクキン
ペタラン ペタラン
日常を聴ける体でいたいと言った誰か 人間の生き方は多様
光のあたらないものささやかなものを形作りたい
二度目に見つめられたのは、山中湖であった奥野建男文学ゼミに一人遅れて、湖に沿って夜道を急いでいた時でした。左側面にずっと視線を感じます。誰だろうと目を上げて見ると、急に鮮やかなドカーンとした富士山の姿。富士山に見つめられていました。大いなる意識と共に歩いて行けるのは幸せです。自然は静寂の中で人間を見つめているんですね。
桑原 真知子/くわはら まちこ
広島県生、空見人。多摩美術大学絵画科油画課卒業。広島大学文学部考古学科研究生修了。草戸千軒町遺跡にて、遺物の漆椀の図柄の模写や土器の復元を行う。シナジェティクス研究所にてCG担当とモジュール作成などを経て、現在は魂を宙に通わせながら作家活動を行っている。