an korci ~ありのまま

郷右近 富貴子

 

 

 

私の暮らす、北海道・道東の阿寒湖温泉は、大きな二つの夫婦山、ピンネシリ(雄阿寒岳)とマツネシリ(雌阿寒岳)の麓にある小さな観光地の街です。小さな阿寒湖の街の中には、ホテルが湖を囲むように建ち並び、民芸品屋さんが軒を連ね、これからの季節は観光シーズンまっただ中。そんな街の中の「アイヌコタン(集落)」というところで私は育ちました。

長い冬のシバレもゆるみ、ネコヤナギが膨らむ5月頃から観光シーズンが始まり、コタン中には宣伝の案内と共に、ムックリの音色とその昔のフチ(おばあさん)やエカシ(おじいさん)の歌ったウポポ(アイヌの唄)がスピーカーから休みなく流れ、コタンの奥にはアイヌシアター「イコロ」という劇場があり、そこでは毎日5~6回、アイヌ民族の古式舞踊を披露しています。
コタンの中にある私のお店は、アイヌ料理と創作のオリジナル北海道料理のお店で、父と母と夫と共に、数少ないアイヌ料理店を営んでいます。小さな頃からそんなコタンに住み、オフシーズンの冬には、コタンに住むお婆さんやおばさん達からアイヌの踊りを習い、友だちと一緒に楽しんで踊っていました。なので、「アイヌ」ということに対してあまり偏見もなく、差別もさほど感じることもなく育ってきました。
しかし、時より聞かれる一言の中に、「あなた、本物のアイヌ人?」「アイヌ人ぽくないねぇ」などと言われ、その度に、本物ってなんだ?と、疑問の渦に入り込んでしまうこともあります。

 

私の中にあるアイヌとは、いったいなんだろう・・・

 

そんな事を思っていると、どこからかじんわりと温かいものがこみ上げてきます。それは、幼少の頃にお祖母ちゃんが歌ってくれた子守唄だったり、コタンのおばさんや母と行った山菜採りの時に、不意に口ずさむウポポを聞いた時の嬉しさだったり、子供の時に見た、まりも祭りで集まる各地のアイヌの方々の、嬉しそうに歌ったり踊ったりしている風景だったり・・・。
そんな事を思い浮かべると、懐かしく、温かく愛おしくて、胸がいっぱいになるのです。そして、自分の子供達がアイヌの衣装を着て、踊ったり歌ったりしているのを見て、心から嬉しく、幸せな気持ちであふれてしまいます。
そんな時ふと、「アイヌである」ということが有り難く、守り伝えてくれたお祖母ちゃんに心からの感謝の気持ちでいっぱいになります。
私の住む阿寒湖温泉は、様々なイベントの中でアイヌ文化を取り入れた演出をしたり、ホテルにはアイヌ文様が施され、アイヌ語が多用されていたりと、「観光アイヌ」と言われてしまう要因に溢れていますが・・・

 

アイヌとは何なのか

 

何が本当に大切なことなのか・・・

 

ということを心に言い聞かせつつ、この阿寒湖で生きて行きたいと改めて思っています。

 

 

 

 


郷右近 富貴子/ごううこん ふきこ

幼少よりアイヌ舞踊などを習いつつ阿寒湖アイヌコタンで育つ。3児の母。アイヌ料理屋ポロンノを家族で経営しつつ、阿寒観光汽船「アイヌ文化ギャラリー船」にて、アイヌ語り部として、ムックリやトンコリなどを演奏し、アイヌ文化を紹介している。姉・床絵美と’Kapiw&Apappo’というユニットで音楽活動を行っている。民芸喫茶ポロンノホームページ