東京自由大学会員
リレーエッセイ 第七回
---------------------------------------------------------------------------------------
魂のウツワ
近藤髙弘
坐像は、打ち寄せる波と水平線の彼方を望み魂と対峙した。どこまでも続く閖上海岸の砂浜、雲一つない真っ青な空と心地よい風と波の音。あの時、巨大津波が押し寄せて、多くの命を奪ったとは、思い描くことが出来ないほど、美しい太陽の光が降り注いでいる。
「Reduction」と題した、この瞑想する坐像のシリーズは、2012年春から現在まで制作し、十数体となった。
2011 年3・11の震災後「命のウツワ」プロジェクトを立ち上げ、宮城県・七ケ宿の地元の山土を掘り、間伐材を薪にして登り窯にて、これまでに2000点以上の ウツワ(茶碗)を作り、被災した仮設住宅の方々にお配りさせていただいているが、この砂浜に座る顔のない作品は、今年の夏に七ケ宿にて制作、その同じ土、 同じ窯で焼き上げた。
顔をそぎ取った坐像は、人間の身体もウツワであるという意識から制作に至った。ウツワ「空(ウツ)、和・輪(ワ)」とは、ウツツ「現実」とウツロ「虚」の間にあるもので、魂が出たり入ったりする依り代であり、我々はそのウツワを移ろっているのである。
近藤髙弘 / こんどう たかひろ
1958年生まれ、京都府出身の陶芸・美術作家。陶の素材・表現を基軸に、土やガラスや金属などの立体・平面の造形表現を制作している。作品は初期には近藤家の伝統的な染付作品を制作、その後実用的な器の仕事から離れ、幾何学・抽象的な時空壺シリーズを制作、また、銀滴彩と名付けたオリジナル技法によるミストシリーズを展開。国内・海外での展覧会に多数出品している。
パブリックコレクションに、メトロポリタン美術館、ボストン美術館など多数。
祖父は人間国宝の近藤悠三。父・近藤濶も同じく陶芸家。