パイカル  〜春〜

郷右近 富貴子

 


あんなにあった雪も、あっという間に溶けて
そこかしこに目をやれば、ふきのとうがヒョコヒョコと顔を出し
ふきのとうの天ぷらやらフキ味噌を食べる。
口いっぱいに広がる春の味。
この苦味を満喫してやっと、春がきたんだなぁと、実感する。

 

 



GWを皮切りに阿寒湖の夏のシーズン到来。
この頃は、外国からのお客さんも多く、
台湾・中国・タイ・シンガポール・・・
と、ツアー団体で沢山の外国人観光客がやってくる。

私の住むアイヌコタンでは、「イオマンテの火まつり」というイベントを
ロングランで開催し、色々な演出とともに
アイヌシアター「イコロ」の特性を生かしつつお客さんを迎えている。

阿寒湖の魅力を発信しつつ、今後どういう形で観光客を
迎え、呼びこむことが出来るのか…

今色々な形で、色んな話が飛び交っている観光地、阿寒湖。

阿寒湖のマリモを世界遺産へ!
IR誘致(カジノを含んで一体となた複合観光施設)
欧州の観光客向けアイヌ文化の体感旅行企画…など。

ただ黙っていても、お客さんがわんさか来てくれる時代は
とうの昔に終わってしまっていて、
シャッターが下りたままの店も毎年一軒二軒と増えてゆく現状の中、
今これから、観光客をどう呼び込んでゆくのか…

阿寒湖の魅力とは何なのか…
みんなが生き残る道は、果たしてあるのか…

アイヌ文化とともに…
ということが、阿寒湖のテーマになりつつある中で、
カジノもまりもを世界遺産へということも、様々な旅行企画も
全てにアイヌという言葉が飛び交っている。

その度に私は、どこか構えてしまい、防御態勢に入ってしまう…。

自分の納得の行くかたちで、アイヌ文化を発信し
阿寒湖で生きてゆく…

「自分の納得の行く形で…」

そのことは、もしかしたら、ただのエゴなのだろうか…
納得がいかなかったら、やーめた! とか 反対です!
と、言っていればいいのか…

阿寒湖アイヌコタンを立ち上げた先人のアイヌ達は、
アイヌの踊りを見せ、店先で木彫を彫り、ムックリを鳴らし、
多くの観光客の見世物になり、他の地区のウタリのからは、
「観光アイヌ!」と罵られていた時代もあった…

でもそれは、成り下がったのではなく、アイヌ民族という
誇りの中で、アイヌ文化を守り、伝え、発信し、
そして阿寒湖アイヌコタンで生きてゆく方法だったんだな…
と、この頃つくづく思ったりもする。

これから山は、山菜が次々と顔を出し始める。
山の恵みに感謝しながら、フチや家族と共にウポポを口づさみながら、山菜を摘む…そんな時を大切にしながら、これから先も、自問自答しながらも、この阿寒湖で私なりに生きていこう!と、シーズンを皮切りに、しみじみ思っている。

 

 


 


郷右近 富貴子/ごううこん ふきこ

幼少よりアイヌ舞踊などを習いつつ阿寒湖アイヌコタンで育つ。3児の母。アイヌ料理屋ポロンノを家族で経営しつつ、阿寒観光汽船「アイヌ文化ギャラリー船」にて、アイヌ語り部として、ムックリやトンコリなどを演奏し、アイヌ文化を紹介している。姉・床絵美と’Kapiw&Apappo’というユニットで音楽活動を行っている。民芸喫茶ポロンノホームページ