〈大自然の中のいのちへの讃歌〉大重先生の祈り 

高木慶子

 

 

こんにちは。私が大重先生とお目にかかったのは、阪神・淡路大震災直後だったのです。私も神戸で被災致しましたし、先生もご自宅が神戸でいらっしゃったので、先生ご自身も、その後の生活は大変だったと思います。私の方の修道院は半壊でしたが、地域全体がとても辛く困難な生活をしていたその時に、ある方から「こういう映画があるよ」と教えて頂いたのです。それが、大重先生の「光りの島」だったのです。「兵庫・生と死を考える会」で毎年講演会をしておりましたので、講演会の代わりにその映画を上映し、それを監督された大重先生にお話しを伺うという企画をして、参加者を募りましたところ、800人を越える方々で会場は満席になりました。

 私自身が阪神・淡路大震災を体験し、ベッドから振り落とされていたから今の私があるのです。もし、ベッドから振り落とされていなかったら完全に死んでいました。ベッドから振り落とされて、明かりが全く消えました暗い中を、二階の寝室から一階の玄関におりて、明るくなるのを待ちました。太陽が出て、明るくなってからベッドルームを見た瞬間、心身が震えました。完全に私のベッドには大きな書棚が倒れて重なっていました。もし、ベッドにいたら完全に私は死んでいたのです。何かの映画の場面を見るような、現実とは思われない本当に恐ろしい体験だったのです。その後、3日目からは、避難所を回りながら、苦しんでおられる方、特に家族を亡くし、家を無くし、食べ物もなく、本当に辛い方々が多くおられました。毎日、朝に一つの避難所、午後にはもう一つの避難所を毎日ずっと歩き回りました。おかげさまで大学が地震で休校でしたのでそのために2ヶ月の間続ける事が出来ました。

そういう辛い悲しい神戸の街に住んでおりました私たちにとって、私はどうしても多くのものを喪失して、深い悲嘆で辛い思いをしておられます方々に希望を与えたいと考えておりました。癒しの機会を与えたかった。そのような時にある方より、「光りの島」の映画がる事を知らされましたので、「光りの島」の試写会をして見せていただきました。その試写会を見て、これを多くの方に見て頂きたい。そして大重監督に会って頂きたかったのです。それで声をかけました。聖トマス大学の体育館で行いましたが、思いがけず800人を越えて満杯になったのです。大重先生にお目にかかり、そのお話を伺って、何が一番嬉しかったかというと、大重先生はご自分も被災して、とてもとてもお辛い中にあるのに、「みなさん辛いですよね、でも、これだけみんな集まってくれたんだから、一緒に、頑張って明日を生きて参りましょう」と。とっても優しいお言葉で、お声で、お姿でお話していただきました。参加者各自の心が涙で一杯だった私たちにとり、ご自身もお辛い中におありだったのに私たちを癒してくださったのです。参加者の誰もが涙を拭きながら、お互いに肩を叩きながら大重先生のお言葉を伺ったのです。

 

大重先生のお姿とその映画を通して、私が何を感じたかと申し上げますと、〈大自然の中のいのちへの讃歌〉、大自然の一部である人間、沖縄を中心とした大自然の美しさ、静けさ、その中にいる自然の一部である人間の営みのまたすごさ。私たちは大震災を体験し、生きることが苦難に思われていたとき、「生きていけるんだ!生きていける!」。これほど辛い体験をしたのだけれど、大自然がちょっと動くだけで地球の上にいるものはとっても辛く悲しい思いをするのだけど、でも、大自然はこんなに静かで豊かなものなんだ、その〈大自然の中のいのちへの讃歌〉、先生のお祈りだったと思うのです。〈大自然への賛美と祈り〉、それが「光りの島」が私たちに伝えてくれたものだと思いました。

そして、鎌田先生のおかげで、大重先生がお亡くなりになる四日前にお電話でお話することが出来たのです。「高木先生、忘れません。あれだけの人を集めて下さって。」とおっしゃってのですが、「いいえ、お集めになったのは大重先生ですよ」と申し上げますと「そうですかねー」とにこやかに、「僕のいのちはこれで絶えるけれど、向こうで待っているからまた会いましょうね。」とお約束でございました。本当にうれしゅうござました。最期のことばが「高木先生ありがとう。向こうで待っているから、また会いましょうね」とおっしゃっていただきまして、「向こうで待って下さっているんだ」「またお目にかかれるんだ」あのお優しいお優しいお顔と優しい目の中に、真理を求める厳しいまっすぐの光輝く目を、本当に今も忘れません。本当にお目にかかれてよかった、と思います。大島先生、ありがとうございました。またお目にかかる日まで、その日を楽しみにいたしております。

 

 

 高木 慶子 / たかき よしこ

 

日本心理学者神学者聖トマス大学名誉教授煉獄援助修道会修道女シスター)。上智大学グリーフケア研究所特任所長。上智大学特任教授。