アースフリーグリーン革命あるいは生態智を求めて 27

鎌田東二

 

 

わたしにとっての東京自由大学は、具体的には、199755日から始まり(鎌倉での安国論寺での野焼きとトークイベント)、20168月のモンゴル夏合宿で一つの区切りをつけた。もちろん、その後も、年に何回か講座やゼミをしてきたが、しかし、システマティックな関わりは上記の区切りで大きく変化した。

東京自由大学副理事長であった大重潤一郎さんとの関わりは、具体的に、19981月から始まり(埼玉県秩父市での「光りの島」上映会)から始まり、2015722日の大重潤一郎さんの死によって一つの区切りをつけた。しかし、その後の関わりは、大重さんの生前とそれほど大きく変わっていないように思う。確かに、フィジカル(物質的・身体的)な付き合いは終わったが、しかし、お骨の一部は少し比叡山山頂付近のつつじケ丘に散骨したとはいえ、それ以外はわが家に残っているし(祀っているし)、またスピリチュアルには「大重祭り」などをほぼ毎年行ってきて(2020年だけコロナ禍で行わなかった)、今なお関わり続け、当分これは変わることはないだろうと思えるからである。なのので、19981月から202110月末の今日までほとんど変わらずに親密な関わりは続いている。

大重さんとの付き合いの中でわたし自身が受け取ったものとは何であったのか? それを繰り返し問いかけ、反芻しているが、次の3点になるように思う。

  • 自然は偉大なり。自然は対象ではなく、存在基盤である。
  • いのちのいぶきといのりを生きる。受ける。そのいのちに優劣はない。
  • 人間の傲慢さは自滅を呼び込む。自滅ではない道を探究し、実践する。

 

一言で言えば、「楽しい世直し、生き直し」であると思っている。そんないのちのいぶきといのりを生きる「オンライン大重祭り2021」を、本年、2021722日の大重潤一郎さんの命日に行なった。それは、東京オリンピック開会式の前日であった。そして、ちょうどこの722日は「海の日」だったのである。

いのちのいぶきに鋭敏な大重さんにとって、そのいのちの根源は「海」であった。「海」は「生み」であり「産み」である。あらゆるいのちを生み出すみなもと。水の惑星の存在基盤としての「海」。大重さんの作ったプロダクションは「海プロダクション」である。すべてのみなもとは「うみ」にある。それが大重さんの根本認識であった。

その海には、水があり、その水は、大きなうねりとなって、寄せては返し、寄せては返しして、循環・回帰する。その回帰する波の一つにわたしたちのいのちがあり、時代があり、生存がある。だが、その波が突然、地殻変動により大きく高く隆起し、大津波となって襲い掛かる。人に、社会に、文明に。そのような大津波が来ていることを彼はその原点回帰することで、彼の言葉を使って言えば「一周遅れのトップランナー」になることによって、調整し、再生せしめようとした。それはもちろん、簡単にはいかない。構造的な破局の中にあるから。しかし、そうだとしても、不可能の中から次の種を播く。大重さんが行なった「仕事」というのは、映像を通したそのような「種蒔き」である。デビュー作の「黒神」(1970年制作)から、遺作「久高オデッセイ第三部 風章」(2015年)まで。一貫して。微動ともしないひとすじのいのちのいぶきであった。

さて、「オンライン大重祭り2021」は、故大重潤一郎監督(1946-2015)の7回忌にも当たる命日に行なわれた。その日の正午の12時から、故大重潤一郎監督への哀悼だけでなく、コロナや災害で亡くなられた方々への追悼を込めた読経や黙祷を捧げた後、6時間あまりも、休憩なしのぶっ通しで、1810分まで、トークや各種パフォーマンスを繰り広げたのだった。その6時間余の全プログラム・全過程をyou tubeにアップロードしているので、ぜひご覧いただきたい。URLは以下の通り。

 

 

 

また、それとは別に、「オンライン大重祭り2021」の中で上映した<大重映画予告編&インタビュー>のみの30分版を独立した形で以下のyou tubeにアップロードしている。これを見ると、コンパクトに、大重潤一郎という人を理解する手掛かりになるだろう。

また、同日、新たに、「光りの島」「風の島」「原郷ニライカナイへ~比嘉康夫の魂」「久高オデッセイ」三部作の第一作「久高オデッセイ第一部 結章」がVimeo公開した。有料ではあるが、折を見て観賞していただけると幸いである。

光りの島(1995年):https://vimeo.com/user129805387

風の島(1996年):https://vimeo.com/user129805387

原郷ニライカナイへ~比嘉康夫の魂(2000年):https://vimeo.com/user129805387

久高オデッセイ第一部 結章(2006年):https://vimeo.com/ondemand/345934

その他に、すでに、「黒神」(1970年デビュー作)、「水の心」(1991年)、「縄文」(2000年)の三作品もVimeo公開している。

「オンライン大重祭り2021」のプログラムは以下の通りである。

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オンライン「大重祭り」2021722日(木)12時~18時開催 オンライン大重祭りオフィシャルサイト:https://phdmoon.sakura.ne.jp/ohshige/

開催日時:722日(木)12時~18
趣旨:未曽有のコロナ禍の中、いのちの讃歌を歌い続けた映像詩人・故大重潤一郎監督(194639‐2015722日)の命日に、大重さんの遺志とメッセージを確認しつつ、未来につなぐ橋を架けよう!

12時 三拝・法螺貝奉奏・黙祷・読経(約5分 鎌田東二+高橋慈正)
ご挨拶 125分~1230分 開会の辞 鎌田東二+比嘉真人+大重生+大重敦子

第一部:それぞれの大重祭りパフォーマンス1230分~1630分 (司会進行:神田亜紀・比嘉真人)
出演:1,沖縄・久高島より中継(40分)~演奏とトーク

SUGEE(ジャンベ奏者・音楽家、群馬県館林市在住)
小嶋さちほ(シンガーソングライター、沖縄県南城市在住)

比嘉真人(沖縄映像文化研究所代表、「久高オデッセイ第三部 風章」助監督、沖縄県南城市在住)

内間豊(久高島島民、NPO法人久高島振興会理事長、「久高オデッセイ三部作」出演者)
2,大阪より中継(30分)~舞踊と演奏とトーク

JUN天人(舞踏家・大重映画「縄文」主演大阪市在住)+岡野弘幹(音楽家・大重映画「縄文」「ビックマウンテンへの道」音楽担当大阪在住)

3,各地から中継①(60分)~トーク
島薗進(「久高オデッセイ第三部 風章」制作実行委員会副委員長、上智大学グリーフケア研究所所長、NPO法人東京自由大学学長、東京荻窪在住)

高木慶子(「光りの島」上映会主催者、上智大学グリーフケア研究所名誉所長、カトリック煉獄援助修道会会員・シスター)
須藤義人(「久高オデッセイ第一部 第二部」助監督、沖縄大学准教授、僧侶、沖縄在住)

矢島太輔(「久高オデッセイ」について新聞記事を執筆。朝日新聞社記者。学生時分に大重監督と出逢う)

矢野智徳(NPO法人杜の園芸代表、「久高オデッセイ第一部 第二部」出演者、東京在住)

須田郡司(巨石ハンター、「久高オデッセイ」@出雲上映者、出雲在住)

木村はるみ(山梨大学准教授、「久高オデッセイ」等@山梨大学上映者、山梨在住)

門前斐紀(チラシ制作者、金沢青陵大学専任講師、金沢在住)

河合早苗(デザイナー、「唐長」についてのドキュメンタリー映画の製作者、神戸在住)

4,各地から中継②(90分)~歌とトーク

内田ボブ「ワシの歌」(シンガーソングライター、長野県在住)

渡村マイ(一般社団法人SACLABO代表、静岡県藤枝市在住)

鶴見幸代(『久高オデッセイ第二部 生章』作曲家、茨城県在住)

Kow(曽我部晃,ミュージシャン,「ビックマウンテンへの道」DVD製作者,「風の道の歌1,東京都町田市小野路街在住)

藤川潤司・一紗(元「縄文サンバ」・音楽家、熊本県玉名市在住)+藤井芳広(詩人・福岡県糸島市市議会議員、福岡県糸島市在住)

ラビラビ「song of the earth」(音楽家・東京在住)

酒井尚志(パントマイマー、東京在住)
荒井清治(旧姓・坂本清治、与久呂農園、元久高島留学センター代表、岐阜県郡上白鳥在住)

第二部:大重映画上映:1630分~17

予告編「黒神」1970年・「水の心」1991年・「光りの島」1995年・「風の島」1996年・「縄文」2000年・「ビックマウンテンへの道」2001年・「原郷ニライカナイへ~比嘉康夫の魂」2000年、「久高オデッセイ第一部 結章」2006年・「久高オデッセイ第二部 生章」2009年・遺作「久高オデッセイ第三部 風章」2015年(約20分、比嘉真人編集)、「大重潤一郎訪問インタビュー」(約10分、撮影:山田俊一、比嘉真人・大重生編集)上映(トータル30分) (司会進行:高橋慈正・鎌田東二)

第三部:自由トークと閉会の辞17時~18時(司会進行:高橋慈正・鎌田東二)

大重生(大重潤一郎長男、「久高オデッセイ第一部」助監督)+坪谷令子(画家、神戸在住)

各地からの自由トーク

鎌田東二(ホラ貝・歌1曲「銀河鉄道の夜」)+ヴィルデあや・ホルン演奏「ニライカナイ」(ホルン奏者、ドイツ・ベルリン在住)

大重祭り呼びかけ人:鎌田東二、比嘉真人、高橋慈正、神田亜紀、大重生、SUGEEJUN天人 技術スタッフ:KO

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「オンライン大重祭り2021」の中のいくつかの発言などは、本EFG最終回の今号に掲載されているので、ぜひ併せてご一読いただきたく。それぞれに、大重さんと深い交わりを持った方々のメッセージであり、貴重であり、切実である。

「オンライン大重祭り2021」を行なった翌日の2021723日、午後3時半から比叡山に登拝し(東山修験道722)、つつじが丘に至り、お地蔵さま群のところで、改めて一人で、大重潤一郎さんのみたま供養をした。ここは、「草木国土悉皆成仏」という天台本覚思想が生まれた聖地なので、草花を愛した大重さんも気に入ってくれると思う。つつじヶ丘には、つつじ天国、つつじ浄土とも言えるほど、美しいつつじの群生があり、また、小さなお地蔵様群の立ち並ぶ比叡山中で最高の絶景である。「ロケの大重」と言われた大重監督なら、ここを必ず気に入るはずだ。「かまっさんよお~、いい供養地を探してくれたな。ありがとよ。」

わたしは、6年前に大重敦子夫人と一人息子の大重生さんに故大重潤一郎監督の遺骨を分けてもらい、丸6年、大重潤一郎の遺骨とともに暮らしてきたのだった。「久高オデッセイ第三部 風章」の演出助手で、今は曹洞宗の僧侶となった高橋慈正師に大重さんのみたまを供養してもらい、7回忌を無事祈りまつることができたので、これから心おきなく自然葬に向き合うことができる。この時の東山修験道で比叡山登拝が「722回目」となる日に、2015年「722日」に旅立った大重潤一郎さんのみたま供養をした記録は以下のものである。

東山修験道722

「オンライン大重祭り2021」のフィナーレは、ベルリンと日本での法螺貝とホルンの響きの橋を架ける儀式を行なった。この時、ベルリンの壁公園での様子がどうであったかを、ホルン奏者のヴィルデあやさんが次のように書き送ってくれた。

<ベルリンでのエピソードを皆さまにお伝えさせて頂きたいと思います。

ベルリンの壁公園でのセッティングを終え、楽器を片手に祭りの進行を気に留めながら待機していた時の事です。ベビーカーに小さな男の子を乗せて散歩中の男性が側を通り掛かりました。ホルンをご覧になり、男の子に話をされながら、演奏を聴かせて欲しいと仰るので、今私がここで何をしているのか、状況をお伝えしました。

嬉しい事に、演奏時間まで待つと仰って下さり、まだ一歳半くらいの男の子はクッキーをパクパク頬張りながらニコニコと機嫌良く、そして、若いお父さんは「その映画監督のお名前は?」と更に興味を示されたので、監督のお名前だけでなく、私の知る限りの知識をお伝えするよう努めました。

そのまま、この親子は随分と長い時間、木陰に腰掛けて、法螺貝とホルンの響きが披露されるまで待っていてくれました。

そして、いざ演奏が始まると、男の子は目をグッと見開き、私たちの響きに聴き入ってくれました。彼らにとって、この時間がどの様な体験になったのかは分かりませんが、オンラインを通して、こんな風に、ベルリンの壁公園の木陰にて、対面式で偶然にも日本の大重祭り2021に参加された彼らの存在がありました。>

ベルリンからのホルン演奏時の父と子との親子連れの微笑ましくも心温まるエピソード。ベルリンは、大重さんとも親密な交流のあった初代東京自由大学学長の故横尾龍彦画伯の長らく居住していたところでもある。横尾画伯夫妻はベルリンにもベルリン郊外にも住んでいて、1995年にわたしもしばらく滞在させてもらった。その後も、2002年のベルリン日独センター、2004年のシャルロッテンベルグ宮殿での個展、2005年のソニー・ヨーロッパセンターベルリンでの個展で、描画パフォーマンスに石笛・横笛・法螺貝演奏横尾龍彦画伯とでコラボレーションしたことのある思い出深い街である。わたしにとっては、東西に分断された政治の街であるだけでなく、光と影を濃厚に保持した芸術の街だった。その街の「象徴」と言えるベルリンの壁公園で、日本とドイツのボーダーや壁を越える「オンライン大重祭り2021」で、ベルリンのベビーカーの男の子とつながることができて希望を感じた。わずか1歳半ほどの幼子の魂にこの祭りのHH(法螺貝+ホルン)の響きがどのような種として撒かれたか見守りたい。

大重さんが旅立った後、わたしは自分の人生を集大成するつもりで、3冊の詩集を出した。『常世の時軸』(思潮社、2018717日)、『夢通分娩』(土曜日社出版販売、2019717日)、『狂天慟地』(土曜美術社出版販売、202191日)の3冊である。出版日の「717日」は、奈良県吉野郡天川村坪ノ内に鎮座する天河大辨財天社の例大祭の日であり、「91日」は言うまでもなく関東大震災の起きた日である。わたしはこの水の惑星はすでに30年以上前から「狂天慟地」のサイクルに入っていると思っている。大重さんたちと共に行なった「神戸からの祈り」(199888日、神戸サンテレビ、大重さんやわたしの若い頃の肉声が記録されている)は阪神淡路大震災で亡くなった方々を悼み、新たな国生みを決意しクリエイトしていく再生・再出版の祭りであったと思っているが、しかし、道遠く、できることは限られている。その中で、共に「久高オデッセイ」三部作を作ることができた。脳内出血に倒れて半身不随、加えて肝臓癌を17回も手術する満身創痍の中で、励ましたり、共に嘆いたりしながら、この三部作を作った。これは大重さんの遺言であるだけでなく、神話詩集三部作とともに、わたし自身の遺言でもあると思っている。

今日は、20211031日、わたしは東北被災地を巡る旅に出る途次、EFGのこの最後の原稿を書き終える。合唱。ありがとう。

20211031日 鎌田東二拝

 

 

 

鎌田 東二/かまた とうじ

1951 年徳島県阿南市生まれ。國學院大學文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科神道学専攻博士課程単位取得退学。岡山大学大学院医歯学総合研究科社会環境生命科 学専攻単位取得退学。武蔵丘短期大学助教授、京都造形芸術大学教授を経て武蔵丘短期大学助教授、京都造形芸術大学教授、京都大学こころの未来研究センター教授を経て、201641日より上智大学グリーフケア研究所特任教授、放送大学客員教授、京都大学名誉教授、NPO法人東京自由大学名誉理事長。文学博士。宗教哲学・民俗学・日本思想史・比較文明学などを専攻。神道ソングライター。神仏習合フリーランス神主。石笛・横笛・法螺貝奏者。著書に『神界のフィールドワーク』(ちくま学芸文庫)『翁童論』(新曜社)4部作、『宗教と霊性』『神と仏の出逢う国』『古事記ワンダーランド』(角川選書)『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」精読』(岩波現代文庫)『超訳古事記』(ミシマ社)『神と仏の精神史』『現代神道論霊性と生態智の探究』(春秋社)『「呪い」を解く』(文春文庫)『世直しの思想』(春秋社)『世阿弥』(青土社)『日本人は死んだらどこへ行くのか』(PHP新書)など。鎌田東二オフィシャルサイト