世界に触れる

桑原真知子

 

 

小学生の時に卒業までに学校の図書館の本を全部読もうとはじめて、高学年で最後に読んだ本は「滅び行くラカンドン族」というアマゾンの森林伐採ですみかを追われる人たちの話でした。後年、レヴィ・ストロースの「野生の思考」の中でその本の名前を見つけて感動しました。

バックミンスターフラー(建築家・思想家)と関係のあるシナジェティクス研究所に居た頃、フラーが考案した「WORLD GAME」が広島で開催されました。

来日したアメリカのWORLD GAME研究所スタッフの元に、広島平和記念公園の中にある会場ひまわりに広げられた巨大なダイマクション・マップ。その地図の上でゲームは展開していきました。ゲームのおおざっぱなルールは、環境・エネルギー・資源・教育・産業などに関する問題をファシリテーターの導きにより、各国の代表になった人たちが話し合いと地域通貨によって助け合い補い合いながら、資源などを均等に分配して世界のバランスを模索していくゲームでした。

ゲームの最後に核のシンボルとして赤いチップがジョンレノンの「imagin」と共に地図上に大量にまかれたときには涙が溢れました。この世界を維持するためのとても大切な思考だと感じました。フラーは半世紀以上も前に環境難民が増えていくことも示唆していました。

アメリカではこのゲームがきっかけになって原発が一基でも稼働停止しただろうかと疑問がわきましたが、富を平等に分配するという思想が共産主義的であると考えられてムーブメントには至らなかったというお話でした。知的ゲームの仮想世界にとどまっているのが残念だと思いました。

日本でのWORLD GAME開催から30数年、この頃盛んにいわれている「SDGs」はまさにこのベームの思想を継承しています。具体的に動き出し始めたのは、二酸化炭素の排出量がすでに手に負えない量にまで増えて生物の存続が危ぶまれる事態に至ってやっとです。個々の命を守るより、利益優先の政治はいつも遅れます。

今もラカンドン族はアマゾンで暮らしているでしょうか。

日々のこと、動物や植物の葉を食べる足下の武士の生命の循環を考える大切さを思います。何度でも読み返される本のように、地球の過去を読み返せば、その中に生命をめぐる沢山のヒントが隠されているはずです。

 

  

 

桑原 真知子/くわはら まちこ

広島県生、空見人。多摩美術大学絵画科油画課卒業。広島大学文学部考古学科研究生修了。草戸千軒町遺跡にて、遺物の漆椀の図柄の模写や土器の復元を行う。シナジェティクス研究所にてCG担当とモジュール作成などを経て、現在は魂を宙に通わせながら作家活動を行っている。