―直心―
桑原 真知子
テーブル状の真っ白な雲が建物の後ろに沈んで行きます。
五月にボーダレスアートHAPの子ども達の三人展「Three little art exhibition 3つの小さな展覧会」があって、その中の一人Hちゃんの紹介文を書きました。
―Hちゃんの光合成について―
Hちゃんの瞳は
青空の中から
小さなオレンジ色の猫を取りだす
Hちゃんの指先は
真っ白な画用紙の上にクレヨンで線をむすび
フスマやタタミや取っ手やスイッチやコンセントを生みだす
Hちゃんの繊細な耳のセンサーは
ささやかな風の息づかいや
人が心の中でつぶやく声をキャッチする
そんなHちゃんの柔らかな感性は
自分を包み込むこの世界の不思議さに
「どうして?」と問い続ける
その真っ直ぐな問いかけの中に
よく観察し光と結んで形を作る人の資質がひそんでいる
Hちゃんと友だちになって6年目。出会った頃は、白い紙を小さくちぎり「雪ーっ!」ってばらまいて一緒に遊んだり、粘土をぽとぽと落として「猫のウンチ!」って遊んだりしてました。ダンボールで作った『Hちゃんハウス』に招待されて、紙粘土で作ったピザをいただいたこともあります。
日だまりの中でHちゃんは、自分が作ったタタミの上に寝転んで丸まった一匹の猫になったりもしました。
Hちゃんは耳がとても敏感な人で、小さな頃は周囲の騒音にすぐパニックを起こして大声で泣き叫んでました。その度に小さな体を抱きしめて、泣き止むのを待ちました。人混みの中やお祭りの音はHちゃんにとってとんでもないことでした。
大きくなるのにつれて音の許容範囲が広がり、大きな音にも徐々に馴れてきました。強い人です。
Hちゃんの作品はリアリティを追求します。フスマの破れやシワも再現します。
フスマが一番だった頃は、私の家にあった戸袋のフスマをHAPに持って行き、二人で分解してフスマの構造を観察しました。HAPの近所にある建具屋さんに見学に行ったり、頼山陽の住まいや炉を切った茶室も見学しました。
今はスイッチに興味が向いてて、スイッチを分解してカバーの裏面まで作り込んでトリツケ用のビスまで小さなビニール袋に入ってセットされてます。
Hちゃんは今年東京の公募展にスイッチを出品して入選しました。
次にどんな光合成を見せてくれるのか楽しみにしています。
桑原 真知子/くわはら まちこ
広島県生、空見人。多摩美術大学絵画科油画課卒業。広島大学文学部考古学科研究生修了。草戸千軒町遺跡にて、遺物の漆椀の図柄の模写や土器の復元を行う。シナジェティクス研究所にてCG担当とモジュール作成などを経て、現在は魂を宙に通わせながら作家活動を行っている。