アースフリーグリーン革命あるいは生態智を求めて 22

「日本人の死生観~妖怪妖精と異界論をめぐって」

鎌田 東二

 

 

 

2017年12月17日(日)に上智大学グリーフケア研究所とNPO法人東京自由大学との共催で、「日本人の死生観―妖怪妖精と異界論をめぐって」を行なった。講演者は、生前水木しげる氏と深い交流のあった諸氏で、妖精学者の井村君江氏、妖怪民俗学者の小松和彦氏、作家の京極夏彦氏の3方。そして、コメンテーターとして、NPO法人東京自由大学学長で上智大学グリーフケア研究所所長の島薗進氏に入ってもらい、実に豊かな3回忌追悼記念シンポジウムを催すことができた。関係各位、参会者、スタッフの方々全員に心からの感謝を伝えたい。

 

会場には、水木しげる氏の長女の水木プロの原口尚子さんも来てくださり、最後に発言してもらった。その日の夜、シンポジウムの感想が、ツイッターやフェイスブックで、「面白すぎた!」「興奮した!」「本当に行って良かった!」と絶賛の嵐になっていたという。ありがたいことである。

 

その夜、原口尚子さんから次のようなメールをいただいた。

 

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「水木しげるが、サブカルでなくアカデミックに語られている!」ということが、とてもありがたく嬉しかったです。

鎌田さんはじめパネリストの皆さんは、水木愛溢れる方々ばかり。おっしゃることはアカデミックでありながら温かい・・・

水木は、きっとあの会場で一緒に聞いていて、時々ツッコんでいたと思います(笑)

私も壇上の先生方がおっしゃることに対して、「そう、そうなんですよ!確かに水木はね・・・」と付け加えたい瞬間が多々ありました。一緒に参加したくなる、そんなぬくもり溢れる会でした。

500人近い方々にお越しいただき、きっと水木も喜んでいたことと思います。本当にありがとうございました。

水木が亡くなって年月が経つと徐々に忘れられてしまうのでは、と不安なのですが、今回のように水木のしてきたことを思い起こさせてくれる機会は、とてもありがたいです。

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これまた、うれしくも、ありがたいことであった。

 

おかげさまで、465名の参加者を得て、大変有意義な形で滞りなくシンポジウムを終えることができたことを心から感謝したい。このシンポジウムを通して、水木しげる氏がサブカルチャー的にもアカデミックにも語ることのできる偉大な思想家であることを再確認した。いつか必ず水木しげる研究で博士論文を書く人が出てくることだろう。もうすでに出ているかもしれないが。

 

いずれにせよ、NPO法人東京自由大学の総力を結集し、上智大学グリーフケア研究所との連携で持てる底力を発揮し、水木しげるワールドから汲み上げることのできる「日本人の死生観」について、ユニークで、意義のあるアプローチすることができた。

 

上智大学グリーフケア研究所のアプローチの在り方にとっても、漫画や大衆文化や妖怪妖精文化というのは、現代人のケアの領域の広がりと多様化の中で、有益な視点だったと思う。

 

わたしは、シンポジウム開催に当たって、まず、お誘いの言葉を次のように綴った。

 

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水木しげるさん(1922年3月8日生~2015年11月30日死去)には、長い間、東京自由大学の守護霊のような「顧問」をしていただいていた。たとえ折に触れて講義などしていただかなくても、ただ「顧問」として存在していただくだけで百万力を得る思いがした。1度だけだが、2000年8月の夏合宿で隠岐の島を訪れた際、水木さんの故郷の鳥取県境港に近い島根県美保関で講演をしていただいたことがあった。あれから17年。水木さんも鬼籍に入られ、東京自由大学もセカンドステージに入った。水木さんが亡くなって2年、3回忌を迎える本年、東京自由大学では、故水木しげるさんを偲び、上智大学グリーフケア研究所と共催で、グリーフケアやスピリチュアルケアとも深く関わる「妖怪・妖精」文化を徹底討議する企画を立てた。出演者の井村君江氏、小松和彦氏、京極夏彦氏は、みな水木さんの同志や眷属・一族郎党の方々で、世界妖精妖怪文化を活性化させ続けている当事者たちである。その稀代の妖怪妖精論者と共に、まさしく時は冬至の頃、一大「真冬の世の夢」を遊び、楽しみ、語り尽し、味わい尽くしてみたい。(鎌田東二記)

日時:2017年12月17日(土)13時~17時40分

場所:上智大学6号館101ホール(800席)

主催:NPO法人東京自由大学+上智大学グリーフケア研究所

スケジュール

第一部 講演 13時~15時10分

故水木しげる氏を偲び、法螺貝・石笛奉奏  趣旨説明 鎌田東二

記念講演 井村君江「妖怪と妖精の饗宴」(仮題)40分

基調講演① 小松和彦「日本の妖怪と民俗学」(仮題)40分

基調講演② 京極夏彦「物語と妖怪」(仮題)40分

休憩

第二部 シンポジウム 15時30分~17時30分

パネリスト:井村君江+小松和彦+京極夏彦

司会:鎌田東二・辻信行

閉会の辞 17時30分~17時40分

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そして、12月17日当日、次のような挨拶文を会場の参会者に配布した。

 

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水木しげる追悼企画シンポジウム「日本人の死生観~妖怪妖精と異界論をめぐって」開催に当たって

 

みなさま、本日は<水木しげる追悼企画シンポジウム「日本人の死生観~妖怪妖精と異界論をめぐって」> にご参加くださり、まことにありがとうございます。私はNPO法人東京自由大学運営委員長の辻信行さんと共に本日の司会を担当させていただく鎌田東二と申します。開催に当たって、簡単に本シンポジウムを企画した経緯をお話させていただきます。

東京自由大学は1998年に設立準備を進め、1999年2月から実質的な活動を始めた、自由な学びの場と交流を大切にする市民ボランティア大学で、来年設立20周年を迎えます。わたしは設立発起人の一人で、最初から運営委員長や理事長を務めてきましたが、一昨年2015年3月に引退し、世代交代して、今は理事長の宮山多可志さんや辻信行さんなどセカンドステージのフレッシュな面々が運営してくれています。

その東京自由大学の創立時から顧問を務めていただいていたのが、水木しげる先生や本日の最初の講演者でケルト研究の第一人者の井村君江先生でした。水木しげる先生、井村君江先生には心より感謝申し上げます。そのようなこともあり、水木しげる先生には一度、故郷の鳥取県境港の近くの島根県美保神社の老舗旅館でご講演をしていただいたことがありました。

 

一昨年、2015年11月30日に水木しげる先生が93歳で亡くなられた時、青山斎場で行なわれたお別れ会に参列させていただきましたが、その際、水木しげる先生の菩提寺・覺證寺の住職様や御令室様と少しくお話させていただき、NPO法人東京自由大学主催で1周忌を記念して水木しげる先生を追悼するシンポジウムを行ないたいと申し上げましたが、その後わたしが2016年3月末に東京自由大学と京都大学こころの未来研究センターを退いたことも重なって、うまく1周忌に合わせてシンポジウム企画を実現することが出来ませんでした。

が、2016年4月1日より上智大学グリーフケア研究所特任教授として授業や講座や研究活動を行なうことになりましたので、このたび上智大学グリーフケア研究所とNPO法人東京自由大学との共催で、上智大学の新築なった四ツ谷名物のソフィアタワービルの最も大きなホールで水木しげる先生の追悼企画「日本人の死生観―妖怪妖精と異界論をめぐって」を開催させていただくことになりました。本日のコメンテーターを務めてくれます宗教学者の島薗進グリーフケア研究所所長は、昨年4月よりNPO法人東京自由大学の学長も務めてくれているので、両大学が総力を挙げて今回の企画を実現することができましたこと、関係各位に心よりお礼申し上げます。

グリ-フケア研究所は、グリーフケアにかかる研究とグリーフケア・スピリチュアルケアに携わる人材養成を通して日本におけるグリーフケアの理解と啓発を行い、グリーフを抱える者「悲嘆者」がケアされる健全な社会の構築に貢献することを目的として2009年に設立され、グリーフケア人材養成講座や一般公開講座など各種講座を行っています。また、2016年4月より大学院実践宗教学研究科死生学専攻修士課程が開設され、来年度から博士課程も開設される予定です。そのような上智大学グリーフケア研究所および大学院実践宗教学研究科とNPO法人東京自由大学との両事情もあって、本日のシンポジウム企画は「日本人の死生観―妖怪妖精と異界論をめぐって」というタイトルに落ち着きました。

本日の講演者の井村君江先生、小松和彦先生、京極夏彦先生のお三方はみな、生前、親しく水木しげる先生と交流されてきた方々です。最初に、井村君江先生による記念講演「交錯する妖怪と妖精」、続いて小松和彦先生による基調講演「日本の妖怪と死生観~民俗学の視点から」、さらに京極夏彦先生による基調講演「妖しを物語る~異界への誘い」をしていただき、休憩の後、第二部のシンポジウム「見えないモノと日本人の死生観」に入ります。そこではコメンテーターとして島薗進所長・学長に加わってもらい、三名の講演者を囲み、妖怪・妖精・異界を切り口に「日本人の死生観」にググっと迫ります。

どうぞ最後までじっくりとお聞きくだされば幸いです。水木しげる先生もきっとあの世からニコニコと見守ってくれていることと思います。

2017年12月17日 上智大学グリーフケア研究所特任教授・NPO法人東京自由大学前理事長 鎌田東二

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故水木しげる氏は、1922年3月8日、大阪市住吉区に生まれ、その後、鳥取県境港で育った。境港は、隠岐の島に渡る航路を持つ鳥取県内の代表的な港である。この境港に「水木しげる記念館」や水木妖怪が林立した「妖怪ロード」がある。1958年にデビューし、代表作には、『墓場鬼太郎』、『ゲゲゲの鬼太郎』、『河童の三平』、『悪魔くん』、『神秘家列伝』、『猫楠』などがある。長年、東京都調布市の水木プロで仕事をしていたが、2015年11月30日、93歳で亡くなった。お墓は、水木プロの近くの調布市富士見町にある浄土真宗のお寺の覺證寺(細川真彦住職)の中にある。

 

水木しげる氏が南方熊楠の生涯について描いた『猫楠』は大変興味深いところが多々ある。「幽霊語」や「猫語」のマスターというのもその1つだ。水木氏は言う。

 

人間そのものに

人間の気づいていない

不可解な力が

秘められており

「熊あん」(-南方熊楠の愛称)も

言っている通り

我欲をすて宇宙と

どうかすることによって

それはみえるのだ

 

と。また、「夢族」や「夢旅行」についても語り、「複心(複数の心)」が「抜け首」となって飛ぶことがあるとも言っている。

 

とりわけ興味深かったのは、南方熊楠が訪ねてきた柳田國男に、「生まれつき妖精を感じる力を持っている」子供がいると語っているところである。そういう子供は、将来、学者や詩人になると描いているが、水木しげるさんも南方熊楠も柳田國男も折口信夫も宮沢賢治もみな子供の頃から「妖精を感じる力」を持っていたと思う。そして、彼らはそれぞれ漫画家や生物学者や民俗学者や詩人になった。

 

東京自由大学と水木しげる。そこに共通しているのは、「試験も何にもない」自由さがあるということだろう。探究と遊びと交流が循環している魂のオアシス。そんなオアシスとしての東京自由大学とゲゲゲの鬼太郎。

 

今回のシンポジウムは、上智大学グリーフケア研究所との共催ということもあって、大きく「日本人の死生観」というタイトルになったが、その内実は、妖精と妖怪の文化を総合的に考えるということにあった。

 

まず、この点を、井村君江先生の記念講演「交錯する妖怪と妖精」が道をつけ、突っ込みを入れた。続いて小松和彦さんが民俗学の視点から日本の妖怪文化と死生観に切り込み、さらに京極夏彦さんが水木しげるさんの作品に即しながら現代妖怪文化の諸相をぶった切った。そして、休憩の後、第二部のシンポジウム「見えないモノと日本人の死生観」で、島薗進上智大学グリーフケア研究所所長・NPO法人東京自由大学学長のコメントを挟んで、縦横に論議した。

 

その様は、まるで「真冬の世の夢」のようであった。饗宴=シンポジウムと言うにふさわしい妖精妖怪の届いになったのではないだろうか?

 

ところで、アイルランドを「妖精の国(フェアリー・ランド)」と呼ぶなら、日本は「妖怪の国」と呼ぶべきだろう。神様も八百万ならば妖怪も八百万。フェアリーほどかわいらしくはないが、天狗や鬼や河童や付喪神など、百鬼夜行の妖怪たちがわんさとひしめいている。

 

日本には多種多様の不可思議不可解な妖怪がいることは、水木しげるさんの妖怪百科や妖怪大事典でも通覧することができ、心底驚かされる。もちろん中には、水木さん自身の創作妖怪もいろいろとあるだろうが、たとえそれが水木さんの創作であったとしても、「そうそう。さもありなん。」と納得するところが、わが「妖怪の国」たるゆえんである。

 

「妖精の国」の研究者である井村君江先生は、「妖怪の国」の研究・表現者である故水木しげるさんと深く意を通じていた。二人の間には、せわしなく世知辛い世の中の隙間や向こうや奥にある、目に見えないかそけきモノへの鋭く切ない感受力と愛惜があった。世俗の中に埋没していたらとうてい感じとれない幽玄・神秘・怪異の風情と風流。

 

その淡い影絵のような世界の中で遊ぶ二人は、童男童女のように無垢無邪気で直接的で情熱的で、この世の規範や常識から相当ズレている。そのような、いい意味での「非常識」が二人の知性を鋭く深く大らかなものにしている。そのお二人の偉大なお仕事に心からの敬意を表したい。

 

忘れられない印象的な思い出であるが、わたしは井村君江先生に案内されて、イギリスのコーンウォールを旅したことがある。1994年の夏のことであった。井村先生と共に、コーンウォールでのドルイドの詩人の祭り(ゴーゼスの祭り)や、日本の厳島神社や竹生島や青島のようなセントマイケルズマウントや、ランズ・エンドやストーンサークルなどを見て回った。

 

中でも忘れられないのは、ランズ・エンドである。わたしは行く先々で土地の精霊や目に見えないモノへのご挨拶や感謝の思いとともに石笛や横笛や法螺貝を吹き鳴らすことがならわしであるが、アーサー王が常若の国(ティル・ナ・ノーグ)に渡ったというランズ・エンドの断崖の突端から法螺貝を力いっぱい吹き鳴らした時、目の前を一羽の白い鷗がスーッと気持ちよく滑空し横切っていった。あたかもアーサー王の往った常若の国を指し示すかのように。

 

その時わたしは若山牧水の「白鳥は悲しからずや空の青海の青にも染まずただよう」という短歌を思い浮かべつつ、「常若を指し示し往く白鳥はの青射抜く矢の如」と感じ入ったのであった。

 

「東京自由大学」(現在はNPO法人東京自由大学)を設立し、第1回目のシンポジウム「無からの創造と芸術」を開催する少し前に井村先生に電話し、顧問になっていただきたいとお願いした際、快くお引き受けいただいた。確か、1999年2月15日頃だったと記憶する。その直後に井村先生が脳内出血で倒れ、大きなダメージを蒙ったのだった。半身麻痺し動けなくなった井村先生を川崎市の聖マリアンナ大学に見舞ったことも何度かあった。

 

再起不能かと多くの人は思ったかもしれないが、それからの井村先生の「復活」は凄かった。まさに人間業とは思えない、妖精や妖怪の仕業として思えないような回復と活動であった。倒れてからのお仕事の豊饒さは驚嘆するものがある。凄い。本当に人間業とは思えない神秘不可思議を感じる。まさに妖精や妖怪や精霊や神々に導かれてあるのだと思わざるを得ない。

 

その「妖精力」に守護されている井村君江先生の同志とも言える水木しげるさんが鬼籍に入った。ますます「妖怪力」を発揮して、世の中を面白く搔き回してほしかったが、十分その使命は達成されて「妖怪ランド」で今は楽しく、「お化けにゃ学校も試験も何にもない」とおおどかに遊んでいらっしゃるだろう。「妖怪の国の主」水木しげる大人の「ご妖福」を心よりお祈り申し上げます。

 

 

かくして、水木さんがさらなる「妖怪力」を発現して、現代社会に笑いと喝を吹き込んでくれることを心から待ち望んでいる。

 

 

 

鎌田 東二/かまた とうじ

1951 年徳島県阿南市生まれ。國學院大學文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科神道学専攻博士課程単位取得退学。岡山大学大学院医歯学総合研究科社会環境生命科 学専攻単位取得退学。武蔵丘短期大学助教授、京都造形芸術大学教授を経て武蔵丘短期大学助教授、京都造形芸術大学教授、京都大学こころの未来研究センター教授を経て、201641日より上智大学グリーフケア研究所特任教授、放送大学客員教授、京都大学名誉教授、NPO法人東京自由大学名誉理事長。文学博士。宗教哲学・民俗学・日本思想史・比較文明学などを専攻。神道ソングライター。神仏習合フリーランス神主。石笛・横笛・法螺貝奏者。著書に『神界のフィールドワーク』(ちくま学芸文庫)『翁童論』(新曜社)4部作、『宗教と霊性』『神と仏の出逢う国』『古事記ワンダーランド』(角川選書)『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」精読』(岩波現代文庫)『超訳古事記』(ミシマ社)『神と仏の精神史』『現代神道論霊性と生態智の探究』(春秋社)『「呪い」を解く』(文春文庫)『世直しの思想』(春秋社)『世阿弥』(青土社)『日本人は死んだらどこへ行くのか』(PHP新書)など。鎌田東二オフィシャルサイト