―太陽のとげ―

桑原 真知子

 

 

高いアンテナの上にカラスが一羽、くちばしが朝日に光りまっすぐな視線の先に春めいた空気の波頭がありました。

今朝はとても幸せな気持ちで目覚めました。しばらく忘れてた新鮮な感覚です。光がうれしい、風がうれしい、生きてることがうれしい。子どもの頃は毎朝起きた瞬間から嬉しくてうれしくて、今日はどんなことして遊ぼうかと考えてました。

昨日は友人が車で、姉ともう一人の友人を東広島市美術館まで運んでくれました。

 

2月10日から3月19日まで東広島市美術館特別企画展 現代の造形-LIFE & APT-「光―身近に潜む科学とアート―」展に出品しました。

東広島市美術館は自然が残る、鴨やオシドリが群生する池のほとりにあります。大正時代のクラシックな建物は趣があり、こじんまりとしたアットホームな美術館です。

この展覧会の主旨は、生活の中にある「光と科学」を造形の視点で感じ取り、人と生活と美術の接点を探る試みでした。光には外なる光と内なる光があります。外なる光は宇宙から届く光と人間が作り出した電気があり、内なる光は生命が発する光と祈りがあると思います。

 

出品作家は、青原恒沙子、片桐飛鳥さん、佐伯慎亮さん、坂本淳さん、下瀬信雄さん、照沼彌彦さん、友定睦さん、中村圭さん、常磐達司さん、厚海慶太さん長山哲也さん、根間智子さん、福田惠さん、藤岡亜弥さん、大矢英雄さん、向川貴晃さん、安田暁さん、SHAREFLと私を含め国内からの参加でした。私の作品のタイトルは「太陽のとげ」。10年前に制作しました。

地球から太陽までの距離一億五千万キロ。父の在宅介護を続けながら生命のことを考えていたら、太陽に行き着きました。虫眼鏡と画用紙と自分の目を守るゴーグルをつけて台所のドアを開ける。画用紙の中心に虫眼鏡を当てて太陽光線で焼いて穴を開ける。お天気の日には毎日続ける。

気がつけば2004年8月6日の自分の誕生日に始めて、2007年8月17日まで三年あまり続けてました。刻印する素材は画用紙から廃木へとかわり、木につけた黒い線は太陽の黒点のような黒い点の連なり、点の集合体で出来ています。その行為の中に、自分が生きている手で触れられるリアリティがありました。(展示所感原稿から)

現代の造形-Life&Art-「光‐身近に潜む科学とアート‐」展カタログから
現代の造形-Life&Art-「光‐身近に潜む科学とアート‐」展カタログから

虫眼鏡を透して雲が流れる小さな青空が紙の上に出現した瞬間は、太陽からの奇跡のプレゼントでした。 

今回の企画に協力して頂いた広島大学宇宙科学センターでは、日本に四台しかないという大型の「かなた望遠鏡」で地球の影が映る三日月形の金星を見せて頂きました。あらためて私という人間が生きているのは、宇宙のダイナミックで密やかな采配に寄るところだと感じました。

 

この企画展の選考委員の一人藤岡亜弥さん(写真家)に私の作品を勧めてくれたのは、いさじ章子さん(サウンドパフォーマンスアーティスト)です。

 

 

 (覆された宝石)のやうな朝          

     何人か戸口にて誰かとさゝやく

     それは神の生誕の日。

 

 

 

 

いさじさんが一番好きな「天気」という西脇順三郎さんの詩です。

 

今彼女は緩和ケアの病室の春めいた空が広がるベッドの上で、末期癌と鮮やかに闘っています。いさじさんの友情には感謝するばかりです。

 

 

  

桑原 真知子/くわはら まちこ

広島県生、空見人。多摩美術大学絵画科油画課卒業。広島大学文学部考古学科研究生修了。草戸千軒町遺跡にて、遺物の漆椀の図柄の模写や土器の復元を行う。シナジェティクス研究所にてCG担当とモジュール作成などを経て、現在は魂を宙に通わせながら作家活動を行っている。