アースフリーグリーン革命あるいは生態智を求めて 18 

自由ヶ丘の東京自由大学

鎌田東二

 

 

 

NPO法人東京自由大学が自由ヶ丘に移転し、新体制となってほぼ1年になる。

2017121日には、細野晴臣さんと三上敏視さんの2人を招いてトーク&ライブを行なったが、この時、自由ヶ丘に移って最大の人数103名が聴講に来てくれ、満員御礼となったようである。まことにありがたいことである。

わたしはと言えば、宮山多可志新理事長と辻信行新運営委員長たちを始めとする新スタッフたちに、「自由自在」に、勝手気ままに、新しい場で展開してもらいたかったので、何も口出ししないし、行かないと決めていた。

が、2017113日と20日の金曜日に2回続けて、鎌田ゼミ「日本の神々と聖地」を行なうこととなり、わが任務を果たすため、初めて、自由ヶ丘の東京自由大学に足を踏み入れた。

神田の古いビルの2階とは違って、お洒落なファッションビルの4階に、新東京自由大学はあった。とてもお洒落で、周りの街並みも感じがいい。神田も穴場でよかったが、自由が丘はクリアーでもっといい。華やかさと賑やかさと、駅から徒歩10秒という超至近距離もいい。

いいところに移転したな、いい感じだな、というのが第一印象であった。そして、そこでの2回のゼミはとてもやりやすく集中できたので、学びの場としても大変恵まれていると感じた。いいね! NPO法人東京自由大学セカンドステージは!

というわけで、東京自由大学の新体制に大安心して、さらなる「自由自在」の大展開を実現してほしいと、前理事長・現応援団長としては思っている。

この1年のわたしの方は、京都大学こころの未来研究センターから上智大学グリーフケア研究所に所属が移り、東京四ッ谷の上智大学四ッ谷キャンパスと大阪梅田の上智大学大阪サテライトキャンパスの両方に通いながら、両方で、「宗教思想の構造」「聖地の比較宗教学」「日本の宗教と文学Ⅰ・Ⅱ」「死生学」「宗教学」の6科目を担当し、さらに京都での「グリーフケア講座」(春秋各8回連続講座)、大阪での「こころとからのケア学」全4回などを担当した。

それぞれ、新しい担当であり、緊張もあったが、おもろかった。この1年、自分なりに、授業には相当力を入れた。40年以上の教員生活の中で、今年度が一番真面目に力を注いで授業した。

それが学生・受講生に伝わったかどうかは不明だが、教育とか授業担当ということを改めて体験し直し、噛み締める一年になったことは有難くも得難い体験であったと思っている。中でも、「日本の宗教と文学Ⅰ・Ⅱ」は春学期・秋学期の1年間に渡り、300人ほどの大人数の授業で、毎回、授業開始直後に法螺貝を奉奏することから始め、カツを入れた。300人の授業ともなれば、その緊張感を維持するためには、1時間半、90分を束ねる何らかの儀式が必要になる。それを自分なりに、授業冒頭部で法螺貝を奉奏するところから始めることによって、フンギリをつけた。2年目の来年度は、この1年間の経験を踏まえて、もう少し余裕を持って対処できるかもしれないと思うが、よい機会と経験になった。

「東京自由大学」は入学資格のない誰でもが参加できる「市民大学」である。どこからも助成金などももらっていない。寄附はあったが、今まで、どこからも助成金や補助金をもらったことはない。そのことは大変よかったと思っている。おかげで自分たちで納得のいく運営ができた。ただし、万年赤字を自分たちで補てんするのは、大変だったけど。

だが、京都大学や上智大学は、それぞれ、国立大学法人、学校法人上智学院で、文部科学省の縛りも、補助金や助成金もあり、入学資格も一定の条件を満たさねばならず、入試による選抜もあり、入学に限定がある。

誰でもが、いつでも学べる生涯教育の機会と場が必要だといつも思っている。それには、入るのに制限や限定があってはならない。誰もが入れる方がいい。だが、一般の大学には定員があり、そこに入るための競争がある。しかし、東京自由大学には、教室の広さの制限はあっても、競争するような選抜はない。誰でも、聴きたい講座を聴くことができる。それも、超至近距離で。親密な距離感の中で、質疑応答もじっくりできて。

これが大切である。この距離感の身近さが。

教育は、距離が遠くあっては、効果は半減する。いや、半減以下かも知れない。身近なところで、生活現場で、その人の生き方そのものに関わるような距離の中で実現されればならない。そうして初めて、教育というものの力や効果が発揮される。要は、教育内容やカリキュラムが自分のものとして「血肉化」されねばならないのだから。そのためには、距離は短い方がよい。

東京自由大学の会員数は、設立当初から、顔を覚えられる人数、150名を上限としていた。残念ながら、いつも会員数は煩悩の数の108名くらいを前後し、それの50名の差(会員数の少なさ)も赤字の一原因をなしていたが、でも、それくらいの人数でよかったと思っている。それにより、膝突き合わせて、至近距離で、共に学び、共に語り合い、共に聴き合う親和的な関係性や場を構築することができたから。

中でも、特に大事だったのは、昔は「神田人間市」と言い、その後は少しお洒落に「神田オープンカフェ」と呼んだ、講座終了後の有志の自由発表・表現13分間の時間である。この中で、本当に「傾聴」「ディープ・リスニング」ができる「耳」と「心」が育っていったと思っている。

東京自由大学が単なる情報交換や知識習得の場でないところと意義は、ここにあった。それこそが、それぞれの「神田」を耕す時間であった。霊性の基盤を固める作業過程であった。人の言葉に一心に耳を傾け、その心に向き合うこと。これができなくて、どこに「スピリチュアリティ(霊性)」があるのか。「聴く耳を深く持つ」、これこそ各自の「霊性の涵養」ではないか。そう思って続けた。

新東京自由大学に、そのような場と機会があることを心から願っている。「グリーフケア」や「スピリチュアルケア」においても、最も重要なのは、そうした「傾聴・ディープ・リスニング・寄り添い・同行二人」である。

さて、「フーテンの寅さん」ではないが、念願の「フーテンの東さん」としての生き方の全うであるが、ぼちぼち、フラフラ、ふわふわ、フーテンの東さんとしてのフーテン人生をさらに円熟全うさせ、フーテン道を成就完成して死んでいきたいと思っている。

 

2017127日 鎌田東二拝

 

お知らせ:20161028日に行なった五木寛之氏特別講演会+五木寛之氏・島薗進氏・鎌田東二鼎談「『悲』の力」の内容が、朝日新聞の「Web RONZA」に3回に渡り、公開されます。ぜひご一読ください。ご案内ください。

1回目朝日新聞WEBRONZA 2017128

2回目朝日新聞WEBRONZA 2017130

3回目朝日新聞WEBRONZA 201721

 朝日新聞社の言論サイト「WEBRONZA」:http://webronza.asahi.com/

 

 

 

鎌田 東二/かまた とうじ

1951 年徳島県阿南市生まれ。國學院大學文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科神道学専攻博士課程単位取得退学。岡山大学大学院医歯学総合研究科社会環境生命科 学専攻単位取得退学。武蔵丘短期大学助教授、京都造形芸術大学教授を経て武蔵丘短期大学助教授、京都造形芸術大学教授、京都大学こころの未来研究センター教授を経て、201641日より上智大学グリーフケア研究所特任教授、放送大学客員教授、京都大学名誉教授、NPO法人東京自由大学名誉理事長。文学博士。現在、京都大学こころの未来研究センター教授。NPO法人東京自由大学理事長。文学博士。宗教哲学・民俗学・日本思想史・比較文明学などを専攻。神道ソングライター。神仏習合フリーランス神主。石笛・横笛・法螺貝奏者。著書に『神界のフィールドワーク』(ちくま学芸文庫)『翁童論』(新曜社)4部作、『宗教と霊性』『神と仏の出逢う国』『古事記ワンダーランド』(角川選書)『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」精読』(岩波現代文庫)『超訳古事記』(ミシマ社)『神と仏の精神史』『現代神道論霊性と生態智の探究』(春秋社)『「呪い」を解く』(文春文庫)など。鎌田東二オフィシャルサイト