―空飛ぶお魚―

 

桑原 真知子

 

 

 

雲が風に押されて通り過ぎて行きます。お正月を過ぎて、空を泳ぐ魚のような飛行船を幾度も見かけました。大和ミュージアムのある呉が、飛行船の寄航地だそうです。

 

            森羅万象を食べ尽くし、森羅万象で 成り立っているわたし。

            わたしはひとつの宇宙。 宇宙のなかのひとつ。

            われに触れるものは、やがて広大な荒野に自由に解き放たれる。

            あぁ、われに近づくもの、すべて に幸いあれ。

            苦しみもまた甘美な光となりて、 肯定の新しい海と空のあわいに、

            告天使(ひばり)が飛んでゆく、、、。

 

 この詩は友人のいさじ章子さん(サウンドアートパフォーマンスアーティスト)が、「荒野の唇」と題した私のオブジェに寄せて作りました。

 

昨年末「ジェンダー・フォーラム in 広島」が開催されました。

ひろしま女性学研究所の高雄きくえさん、広島市立大学のウルリケ・ヴェールさん、美術担当のいさじ章子さん、広島在住の研究者の方々を中心に、一ヶ月ごとの学習会を重ねて準備に二年を費やして実現しました。

 

「見る、聴く、話す」がキーワードでした。被爆70周年を迎え国際平和都市と呼ばれる広島の窓辺から、被爆を中心軸にジェンダー視点で検証していくと、近現代の歴史の闇に潜むさまざまな問題が垣間見えてきました。

左から[水の瞳] [風の耳] [荒野の唇]
左から[水の瞳] [風の耳] [荒野の唇]

国内外からの研究者のスピーチでは、○「廣島・ヒロシマ・広島」の言葉が持つ意味○なぜ栗原貞子のフェミニズム性は注目されなかったのか・ミニコミとフェミニズム○ローカルで生きる性的マイノリティーの状況○ヒロシマとメディア・原爆報道の検証。

○被爆の「記憶と忘却」○核の軍事利用と平和利用○在日朝鮮人女性被爆者に対する複合差別と高齢化福祉問題○沖縄から見える問題○広島はアジアの交差点になり得るのか○同盟国の・巻き込まれる・捨てられるというジレンマ○「戦争の加害者・被害者・共犯関係」という新たな視点。国家、戦争、平和、文化、民族、暴力、差別意識、マイノリティー、人権などの問題が提起されました。

ヒロシマ、ナガサキ、フクシマとカタカナで地名が語られ、「被爆」から「被曝」へと核のある時代を生きる私たちにとって、生命の安全をどう未来へとつなげて行くのか参加者全員で考えて行く試みでもありました。

同時開催イベント・展示は、藤岡亜弥さんの写真展とビデオ上映、広島市立大三年生の加藤望さんの版画、オブジェ、演劇の鈴木まゆさん一宮春水さん画家のガタロウさんシタールの恵さんのパフォーマンス、在朝被爆者写真展でした。フォーラム当日はみんなスタッフで参加しました。

 

印象的だったのは、会場の参加者の方からの声でした。

福島から広島に避難して来られた方の「今だ混乱の中にいる」という言葉。

語り部の方の「被爆者が高齢化して<被爆の証言>から本人がいなくなり、次世代に引き継がれる<伝聞>へと変わった」という言葉でした。

 

懇親会のたけだまるみさんたちの料理も含めて、女性たち中心の、手作りで友情あふれる温かいフォーラムでした。

子どもの頃は、光や空気や水が粒々の粒子で見えるから、光や空気の流れに指先で触れるのが好きでした。今指先は朝を送り出す夜に触れ、考えはじめています。「原発おやすみなさい」。

 

 

http://www.gender.sblo.jp/


 

 

 

桑原 真知子/くわはら まちこ

広島県生、空見人。多摩美術大学絵画科油画課卒業。広島大学文学部考古学科研究生修了。草戸千軒町遺跡にて、遺物の漆椀の図柄の模写や土器の復元を行う。シナジェティクス研究所にてCG担当とモジュール作成などを経て、現在は魂を宙に通わせながら作家活動を行っている。