中国“80後”世代事情

田 園

 


 

1978年 日中平和友好条約調印

 中国改革開放の始まり

 宗教ブームが高潮に入る

1979年 一人っ子政策の始まり

1980年 世界保健機関が天然痘の根絶宣言

1982年 CD発売

1983年 任天堂ファミリーコンピュータ(ファミコン)発売

      インターネット誕生

198?年 ペットボトルが世界中で普及

1987年 世界の人口が50億人突破

1989年 任天堂ゲームボーイ発売

 天安門事件 

 ベルリンの壁崩壊

1990年 マック中国上陸

 

 

「現代人」とはなんだろう。常にネットに繋がっていて、ペットボトル飲料を飲んだり、ファーストフードを食べたり、黙ってイヤホンで音楽を聴いたり、ゲームをやったり…。今の若者を想えばこんなイメージが浮かんでくる。「現代」的な道具に囲まれて、黙って、涼しい顔で日常生活を送っている人々。

 

よく考えれば、この「現代」を作り上げた道具の多くは、80年代から普及してきたものだ(特に中国の場合はそうだ)。1986年生まれの私にとって、自分自身の成長は、中国の「現代化」とか、経済成長と同調するものだった。

 

私が小学校に入ったぐらいの時、『聖闘士星矢』が中国で大流行していた。海賊版のマンガが簡単に手に入り、それらが売られている本の屋台が、ずらっと並んでいる光景が印象的だ。従兄弟のお兄さんは、ほぼ全巻もっていて、私が彼の家で読んだのはずいぶん後だった。小学校に入ると、すでにパソコンの授業が始まっていた。アップルシリーズに似た中国製パソコンが揃っていて、BASICのプログラミングを授業でやった。

 

その後、ファミコンやゲームボーイが中国の小学校で流行り始め、中国製のゲーム機も盛んにテレビで宣伝していた。セーラームーンや、ポケモンなどの日本のアニメをテレビでやっていて、同世代の子どもたちに多大なインパクトを与えたに違いない。誕生日の時にマックに行けば景品がもらえる。ナイキのスニーカーを欲しがる子どもたち。そして小5の時、お父さんがパソコンを買ってきて、DISCMANや、インターネット、携帯電話などを使い始めた。

 

中国が改革開放と一人っ子政策を実施した直後、いま“80後(バーリンホウ)”と呼ばれている新世代の人々が生まれてきた。地方によって時間差はあるものの、北京・上海のような大都市の80後は、いきなり現代的でグローバル・スタンダードな新世代に仲間入りしたのだ。

 

この世代の人々は、前の世代の人々と全く違う子ども時代を送ってきた。70年代までの共産主義的な世界観の代わりに、我々の世界観は殆どアニメ(その多くは日本のアニメ)、ゲーム、及び少し宗教ブーム(アカルト・気功とか)で構成された。学校では成績という数値によって評価され、学校を出るとお金という数値に左右される。大きくなると同時に、中国社会全体がどんどん金持ちになってくる。苦労はしていないものの、寂しさが半端ない。一人の子どもが、親及び祖父母たち、合わせて6人もの大人たちと戦わなければならない。すごく期待されるが、理解されない。しかし、自分はとても大事な人間だと思い込んでいる。とりあえず、80後の人々の多くが、現実感が希薄で、ナルシストで、科学的で、さびしい世界観をもっていると思う。

 

80後”という言葉は、最初は文化現象・文化集団を呼ぶものだった。2000年前後、まだ10代だった80年代生まれの若者たちの中に、いきなり小説家や漫画家としてデビューして、有名になる人が多かった。その現象に大人たちがびっくりして、「80後はすごい」と絶賛し始めた。もちろん小説家や漫画家だけではない。天才パソコン少年などもしばしば雑誌で紹介された。

 

私の友達にこの80後作家の類に入っている人がいる。あるいは私自身もその類に遠くないが、正直、この80後作家集団を文化としては高く評価しがたい。恐らく、それらは文化大革命の時期に出来上がった作品のように、その時代をそのまま見せてくれはするが、それ以上の意味はもたないと思う。

 

ただ時代に押されて、時代に左右された少年たち。寂しくて、自分自身を熱く愛して、外国アニメを真似して空想的世界観を作り出す。色々な面で未熟だが、その未熟さは新しさに覆われ、意外と多くの人に気づかれない。当時の大人たちはアニメを見ない、マンガの読み方を知らない、ゲームもやれない。だから80後の小説を読めば、その世界観や、描き方の異質さにびっくりして、理性的に批評できなかったのだ。同じような作品がもし日本で出版されていたら、それ程びっくりしてもらえなかっただろう。

 

80後は改革開放・一人っ子政策にやられた第一世代として、時代に恵まれた。小さな頃から、カラーテレビでアニメを見て、視覚で考える能力が育てられた。子ども時代にパソコンで遊び始め、仮想世界のルールに大人よりなじんできた。時代の移り変わりに敏感に反応し、いち早く大人たちが知らない領域に入ってしまう。6人の親族に期待されて、猛勉強を続けてきた。それに加え、市場経済の発展がとんでもないスピードで進んで、中国全体が金持ちになってくる。だから80後の一部が若いうちに成功し、注目される。

 

儒教の基本は親孝行だ。年上の人を尊重するのは伝統だった。しかし反抗期の少年たちは、いろんな形で権威に反抗してきた。文化大革命の時、紅衛兵と呼ばれる少年たちの反抗が政治に利用され、巨大な暴力と化した。そのように、80後の若者たちも、次世代パイオニアとしての立場を利用して、自己愛と寂しさをエネルギーに変換し、大いに反抗した。その反抗した証として、「作品」と呼ばれるものが残っている。

 

今、80後の少年たちは、すでに社会に入り、大人になってしまった。多くの人々が普通に生活して、寂しさ・自己愛と和解した。身体的に反抗期が終わったお陰で、相当に大人らしくなってきたようだ。しかし、反抗や新しさを自分自身の個性にしてしまったせいか、その反抗を続けなければならないケースもしばしばある。23年前、80後少年作家を代表した二人の作家が映画監督に転身し、エンダメ業界に進出した。作品そのものはともかく、とりあえず注目してもらった。しかし、次世代の子たちがどんどん出てくる今、80後の眩しい新しさは、どこまで続くのだろうか。

 
 
田園/でんえん
北京出身。畑に囲まれた田舎の寄宿制中学校、北京師範大学第二付属高校、北京映画学院大学卒。そして来日。中央大学大学院で修士号を取り、博士課程に在籍 中。研究分野は宗教社会学だが、その業績はほぼなし。漫画家デビュー歴あり。黒い歴史満載。猛禽保護センター、出稼ぎ労働者の子供のための学校などでボラ ンティアをしていた。中国赤十字社で救命技能認定証をとったが、期限切れている。今は念仏+論語+民間療法+市民農園に情熱を燃やしている。