ドラゴンの使い ’ 大重潤一郎 ’ 

SUGEE


 

 

僕が大重潤一郎に会ったのは、2002年午年十五夜の久高島だった。

その日、久高の十五夜の祭礼のあと、外間殿でアフリカの太鼓ジェンベを’奉納’演奏した僕に対して、神人(かみんちゅ)の反応は真っ二つに分かれてしまった。

カチャーシーで嬉しそうに応えてくれる者、そして一方では忌み嫌うような硬い表情でやめろと激しく手を振る者。

ドレッドヘアーの僕がまだ若く気負っていたこともあるだろうし、演奏者として未熟だったということもあるだろう。しかし今になって思うのは、久高島や他の聖地と言われる場所で生活している方々が最も大切にしている’場に対する感謝の気持ち’が、僕には決定的に欠けていたのだった。

とにかく、演奏は中途でやめざるをえなくなり、僕はショックに打ちひしがれてしまった。音楽家として演奏を途中で制止されるというのは、最も傷つくことだからだ。

その時声をかけてくれたのが久高オデッセイの撮影でその場に居合わせた大重監督だった。

監督はその夜、外間殿で、島人の内間豊さんと共に一晩中僕と杯を傾けてくれた。

’お前はまだまだだが、その道をひたすら進んでゆけば、いずれ人が認めてくれるような男になるだろう’

あの時の監督の言葉が無かったら、僕はあの時音楽を辞めていたかもしれない。そして、その後伊敷浜でみた明け方の満月は心から僕を癒してくれたのである。


監督は鹿児島坊津で生まれたという。

古くは廻船問屋を営む名家で、西南戦争末期に潰走する西郷軍のために密かに逃走資金を提供するような家だったそうだ。

そんな彼を女手一つで育てた生母は、真夏になると避暑のために庭に食卓を出し、’風さんよ吹け’と歌い、本当に風を吹かせてしまうような、そんな方だったらしい。

その息子大重潤一郎も風を愛する。というよりは、監督がいるところに風が吹くと言って良い。

坊津、那覇久茂地の事務所、久高、監督との思い出の場所は、常に風が優しく吹いていて、彼の白髪はいつも風になびいている。

風を愛する者、つまりは循環を愛する者、監督は風、水、海、空、つまりエネルギーや気が滞りなく周り、絶え間なく豊かに循環していく状態を心から愛する男だ。


そんな監督の作品群を観ていて思うことがある。

この男の想念は間違いなくドラゴンに導かれているということだ。

ニライカナイ=竜宮。ニライ神=竜神。そして彼の真骨頂ともいえる’水の心’で描かれている水源から海までの美しい水の動きは、各地の竜神と人々との繋がりを可視化させた傑作だった。

ドラゴンは世界中にくまなく存在する。

風、水、稲妻、エネルギーや気が循環するその様子に、古来から人々は龍の姿を見た。

そして、その循環が度を越さぬように、決して災害にならぬように、人々は感謝と祈願の祈りを絶え間なく捧げてきたのである。ドラゴンが怒らぬように、優しく豊かな循環を常にもたらしてくれるように。


まさしく水と火の対流が激しく起こる鹿児島に生を受けた大重監督は、自らのルーツである海と風の循環を可視化し映像化するという’ドラゴン’の使いとしての使命を帯びたのだろう。

我々は畏怖し、またそこを愛する。


2014年12月18日、ガンが骨髄転移し余命宣告をされ、高齢者施設に移ったと聞き、陣中見舞いに伺った僕を、監督は生え揃ったばかりのふさふさの髪を風になびかせ、はちきれんばかりの笑顔で’ようこそ’と迎えてくれた。

新しい事務所も風をよく通す、気が循環する場所だった。そして監督のクローゼットには、彼が大好きな’薄く緑がかった藍色’つまりドラゴンカラーのシャツが以前と変わらず整然と並んでいた。

この男の周りには永久に人の笑顔そしてエネルギーの循環が巻き起こっていくだろう。

 

 

 

SUGEE(スギ)

アーティスト。群馬県館林市生まれ。

早稲田大学政経学部卒、一橋大学大学院言語社会研究科修士課程単位取得。

90年代後期より、沖縄、東南アジア、中南米、キューバ、西アフリカ等を旅し各地の祭礼音楽およびシャーマニズムとの交流の中から、唄と打楽器という独自のスタイルを確立。特に西アフリカ•マリ共和国では伝統音楽継承者グリオの聖地ケラにおいて正式に洗礼を受け、ママディ•ジャバテの名を授かる。帰国後、全国各地でライブ活動を展開。特に、ボーカルとして参加したJuzu a.k.a Moochy主宰のNXSからリリースされた'LIVE APOCALYPSE 0'は、ルーツミュージックとエレクトロが融合した革新的なサウンドとして各メディアより絶賛された。現在、自身のバンドThe ARTHのリーダーとしてソロプレイヤーとして国内外で活動。

2010年6月、The ARTH初のフルアルバム'CHOCOLATE OCEAN'を地底レコードよりリリース。また、8月にはアフリカ•ルワンダにおいて開催されたピースコンサートに正式に招聘を受け参加、アフリカの各メディアによって広く紹介された。2012年7月にはFUJI ROCK FESTIVAL'12木道亭ステージに出演、2014年7/27には待望のThe ARTHセカンドアルバム'DRAGON PLANET'をリリース。

http://the-arth.com

 

http://shamansugee.com