Co-Musication

 渡村 マイ

 

 

 

地域を取材している仕事をしていると、
ほとんどが聞き役として、その土地の人の話を引き出していくことが多い。

そんな中で、この山間地には、本当にたくさんの、それぞれの人の、会話のリズムがあると感じる。そして、それが、楽しい。

質問してみる。答えてくれる。さらに質問してみる。答えてくれる。
答えたことを繰り返してみる。ポツリポツリと話し出す。

突然しゃべりだす。しばらくして、参加しないのかという感じで、話を振られる。
戸惑う。質問される。考えながら答える。またペースの速い歌が始まる。
合いの手を入れてみる。加速する。楽しくなっている。

終始笑顔。話というよりも、こちらの歌に合いの手を入れて歌うように促す。
何か歌ってもらおうとすると、これを見なさいとその場に招かれる。
それを見て、こちらが歌いたくなる。すると、向こうも笑顔で歌いだす。

会話には、その人その人のリズムと、テンポと、トーンがある。
それが、その人の歌のようで。
こちらのリズムによって向こうのリズムがテンポアップしてきたり。
ゆっくりのテンポに合わせて、こちらもトーンを落として相手の歌に参入してみたり。

私と相手、2人しかいないような場合でも、それは掛け合いの音楽のように展開していく。

どこかの国で、歌って会話をするという部族の映像を見たことがあった。
それは、見方を変えればまったく身近な現象であることに気が付く。

自分だけでは、単調な歌(思考や言葉)が、
周りの人とセッションし、アンサンブルとなって、
その場所の空気を包み込みながら、コミュニケーションという即興音楽が生まれる。

日々、世界中の あちらこちらで そんな無数の音楽が生まれている。

そして、人がぞれぞれのリズムを持つように。
自然も、動物も、モノでさえ、それぞれのリズムを持っている。

時には 虫と、動物と、植物と、例えばあの流れる雲と大地と
耳を傾け、リズムをつかみ、テンポを合わせて、一緒に歌いアンサンブルを試みる。

虫の音は、かすかに、力強く、精いっぱいに
木の実が芽吹くリズムはとてもゆったりと構え、あたたかく
雲の流れは自由に、それでいて空の変化とともに壮大に、高く
大地は、奥底から呼び戻すドラムのような鼓動を震わせる
そして宇宙には繊細で高密度な、美しく未知なる音色が響きあう

もしかしたら 今、人間は「人間」になりすぎて、
テンポの違う、他の生命の音が聞こえなくなってしまっているのかもしれない。

DNAに眠る太古の昔からのいのちの記憶が、
あらゆる生命とのコミュニケーションを求めているのかもしれない。

日々を取り巻く人間社会の音だけではなく、
地球の、生命のリズムに。自然のうつろいに、耳を澄まし、身体をあずけて、「いのち」の音楽を感じたい。

リズムをつかみ、テンポを合わせて、アンサンブルを試みる。

呼吸をあわせ、いのちを感じて、共鳴する。響きあう。

コミュニケーションは音楽そのもの。

 

 

 

渡村 マイ/とむら まい

静岡県藤枝市在住。琉球大学で八重山芸能研究会で活動を行う一方、沖縄映像文化研究所の活動に関わる。立教大学院文学研究科比較文明学専攻にて、アメリカ先住民の文化を学んだ後、故郷である静岡県藤枝市に帰郷。ドキュメンタリー映画上映会などの活動を開始。2009年より地元観光協会に在籍、地域を紹介する「たびいく」冊子を取材・編集。地域素材の魅力発信、地域人に出会う「ローカルツーリズム」を提唱。地域をフィールドにした活動を展開している。トヨタ カローラのコレカラパーソン静岡代表。